芸能の伝統と、文芸の伝統を継承する意味についても、『国宝』は考えさせる作品と言えるのではないか。

そして、『国宝』の終盤で描かれる「人間国宝」の姿は、伝統の継承者として真摯に祭事に取り組み、被災地の人びとの声に膝を突いて耳を傾けてきた「天皇」の姿に重なって見えるほど、ひとつの境地に到達している。

詳細は第1章、第2章で述べるが、『国宝』の主人公・喜久雄が、日本の文化的な伝統を担う「天皇」の存在に近付いていく筆致は、実にスリリングである。

歌舞伎は、江戸時代初期に出雲の阿国(いずものおくに)が創始した女性の芸能でありながら、その後、女性が舞台に上がることが禁じられた芸能である。

歌舞伎という総合芸術の最大の特徴は、女形の演技にあり、男性の役者が、男女の別を問わず様々な役柄を演じ分けることで、世界でも稀な芸能として独自の発展を遂げてきた。

男女平等や機会均等を目指し様々な取り組みが行われるようになった現代において、女人禁制や血縁関係を重視する歌舞伎は、これから「伝統文化」として、どのような形で国際的な価値観と折り合いを付けていくだろうか。

相撲は女性を土俵に上げることを禁じているが、古来「女相撲」が存在し、今日のように大相撲が女人禁制となったのは、明治以後である。

歌舞伎もまた、舞台に上がる遊女たちが取り締まりの対象となり、女人禁制となった経緯もあるが、女歌舞伎の歴史もある。現在は寺島しのぶや市川ぼたん、子役時代の松たか子など、女性が歌舞伎の舞台に上がることも珍しくない。

伝統の革新を予感させるような「余白」