<一度は破産した「モーターシティー」が、いま再生を遂げつつある。その裏には、街の誇りを取り戻そうと骨身を削った市長の存在があった>
2011年、アメリカンフットボールの全米一位を決めるスーパーボウルのテレビ中継で流れたクライスラーのCMに、ラッパーのエミネムが登場した。
彼は新型セダンで故郷デトロイトの街を走り抜け、バックにはゴスペルとヒップホップが流れていた。不況に疲れ果てていた視聴者へのメッセージは明快だった──アメリカでは逆転の物語がすぐそこにある。
「地獄をくぐり抜けた街に、贅沢の何が分かる?」と、ナレーターは問いかける。2分というスーパーボウル史上最長級のこのCMは、後に史上最高の広告の1つと称賛された。
それは、このCMが車を売るためのものではなかったからだ。描かれているのは奪還の物語──気骨、アイデンティティー、誇りの奪還だ。打ちのめされても決して倒れない都市が、自らを見捨てた国に毅然としたまなざしを返していた。
決定的だったのは、最後に現れるコピーだった。「Imported From Detroit(デトロイト発の輸入品)」。国内製なのに、あえて矛盾した言葉を用いることで、デトロイトを特別なブランドとして打ち出したのだ。
2011年スーパーボウルでのクライスラーのCM
あれから14年。エミネムが推したモデルは販売終了となったが、米中西部ミシガン州の「モーターシティー」は活気に満ちている。夏の終わりの午後、退任を控えたマイク・ダガン市長は、デトロイト川とゼネラル・モーターズ(GM)本社を見下ろす執務室で、故郷への誇りに思いを巡らせた。
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