しかし、だからこそ本作は存命人物、特に存命中のアーティストを主人公にする現代の伝記映画特有の巨大な障害にぶち当たる。

スプリングスティーンに少しでも興味がある人はこの20年ほどの間に、彼について知る機会を山ほど手にしている。

本人が製作に携わったドキュメンタリーが複数発表され、無数のインタビューも、本人のポッドキャストもある。数年前にはブロードウェイで長期公演を行い、その模様を収録した映画もネットフリックスで配信された。評伝だけでなく、自伝も出版されている。

さらに、本作にはスプリングスティーンと長年のマネジャーのジョン・ランダウ(作中で演じるのはジェレミー・ストロング)が関わっている。

彼らが知られたくない事柄が明かされるわけがない。かつて音楽伝記映画は、スキャンダラスな嘘を描いたり、観客には知りようもない内幕を教えてくれるものだった。

だが今では、個人的なストーリーはもういいから、作品そのものに語らせてほしいと思ってしまう。ミュージシャン本人があまりに身近になり、よく知る声音や動作、特有のカリスマを持つ人物のふりをしている俳優を見ているという事実を忘れるのは難しい。

アメリカと歩む男を撮り損ねる