アメリカに頼れないと考えたエジプトはロシアとの関係を強め、2月10日にはプーチン大統領がカイロを訪れた。ロシアだけではない、フランスからも戦闘機の購入を決めている。イスラエルの現地紙は、エジプトを疑心暗鬼にさせるこの周辺国動向を、「アメリカと西欧諸国、カタールとトルコが、ムスリム同胞団を支持することで一致するシュールな同盟」と表現した。

 ところで、このエジプトと湾岸産油国との不協和音をどう理解すべきなのだろうか。対米同盟国間の不和なのか、スンナ派諸国間の亀裂なのか。パトロンに見捨てられかけた援助依存国のあがきなのか、それともかつての「アラブの盟主」、アラブの「心臓」部にあたる国による産油国へのリベンジなのか。

 シリア政治の専門家、青山弘之氏は、近著でシリアやイラク、エジプトなど歴史的にアラブ地域の思想的、文化的中心だった国々を「アラブの心臓」と呼び、その心臓が今戦争と混乱と破綻に見舞われている、と指摘している(「アラブの心臓に何が起きているのか」(岩波書店))。60年代まで知的繁栄を享受してきた「アラブの心臓」諸国が衰退するなかで、アラブ諸国の政治経済の中心は、サウディアラビアなどの湾岸産油国に移っていった。

 現在ISが刃を突きつけているのは、その「心臓」部である。なのに、「心臓」に代わってアラブのリーダーシップを担った湾岸産油国は、「心臓」部の混乱に中途半端に介入したり不用意に反政府運動を煽ったり、はた迷惑なことばかりしてくれる。

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 「カネ」づるの縁で産油国に従属してきた没落「心臓」部が、産油国に振り回されることの危険を自覚したのが、今のエジプトと湾岸諸国の不協和音なのかもしれない。湾岸諸国に財政的に依存することが、ひいては自国にイスラーム主義の浸透を招く。同胞団政権を徹底的に嫌うスィースィー政権は、まずはカタールとトルコを目の敵にしたが、リビアへの対応を巡ってその対象は湾岸諸国全体に広がりつつある。

 かつては世俗的アラブ・ナショナリズムの雄として、アラブの盟主を誇ったエジプト。半世紀前、アラビア半島の保守的君主国は、エジプトから流れ込んでくる最先端の思想に常にびくびくしてきた。なのに今や、湾岸諸国の支援するイスラーム主義によってエジプトが危険にさらされている。再びエジプトは、「心臓」の中枢たるべく自らのプライドをかけた戦いを単独でも遂行する国になりえるのか。それとも、ただの自分勝手な行動と、アラブ諸国の足並みを乱すだけに終わるのだろうか。

 ISの存在は、アラブ諸国の域内同盟関係自体を、根幹から揺るがしている。