『哀れなるものたち』
科学者のゴドウィン(右)は助手と共にベラを養育するが ©2023 20TH CENTURY STUDIOS. ALL RIGHTS RESERVED.

ストーンの迫力の演技

新しい経験を求めてやまない精神、先々の計画を立てる能力の欠如、お菓子からオーラルセックスまであらゆる欲望をすぐに満たさないと気がすまない性質のせいで、ベラはリスボンの高級ホテルからエジプト行きのクルーズ船、フランスの売春宿まで、思いもしなかった場所に赴く。

その一方で、何度かセックスの相手を替え、苦しみや貧困の存在を知り、海で出会った年老いた女性が勧めてくれた本を読むことを通し、自分なりの哲学を打ち立てていく。

若者らしいロマンチックな精神に忠実に生きるベラにとって、個人の自由は絶対的なものだ。彼女のご機嫌を取り、罠にかけ、結婚し、「文明化」しようとする男たちにとっては、彼女は卑しむべき「堕落した女」だ。

だが数は少ないが彼女を理解する人々(および観客)にとっては、ベラが社会的束縛の存在を認めようとしないのは爽快で、革命的ですらある。

美術を手がけたのはショーナ・ヒースらで、ベラが訪ねるヨーロッパの街は人工的な夢の世界のように描かれる。書き割りを背景にしたセットは甘い色合いで、ベラの豪華な遊び場のようでもある。

ホリー・ワディントンが手がけた華やかな衣装も、セットとうまく調和している。大きく膨らんだ袖と露出度の高いシルクのホットパンツの組み合わせに、明るい緑に鮮やかな青、ピンクに蛍光オレンジという刺激的な色彩は、ヒロインの言動と同様に歴史設定を軽々と逸脱している。

ただ、非常に様式化されたカメラワークへの監督のこだわり(特に、明確な理由も示されずにほぼ全ての場面で登場する魚眼レンズ映像)には納得がいかない。集中力がそがれてしまう。魚眼レンズを通してゆがんだ図を見ているのは誰なのか、と考えずにはいられないからだ。

このハイコンセプトな作品がうまくいったのは、ストーンの技術的に恐ろしく優れている一方で、ハラハラするほど大胆な演技のおかげだ。ゾンビのような、赤ちゃんのような動きでよろよろと歩き、真っさらな大きな目で見たもの全てを取り込み、激しいセックスをするベラは、忘れ難いキャラクターだ。

ギリシャ神話に王が自作の乙女の彫像に恋をして、神に命を吹き込んでもらう話があるが、さしずめ命を得たことで台座から飛び降り、全速力で駆け出していくのがベラ。サテンの下着をまとったフランケンシュタインの怪物だ。

同時に本作は、業界の頂点にいる俳優が文字どおりゼロからキャラクターを造形していくさまを、そして、赤ん坊から意志の強い大人の女性へと成長するさまを特殊効果なしで堪能できる映画でもある。

©2024 The Slate Group

Poor Things

哀れなるものたち

監督/ヨルゴス・ランティモス

出演/エマ・ストーン、マーク・ラファロ

日本公開中

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