<石油ブームに沸く町で実際に起きた悲劇を基に、人間の心の闇に迫った壮大なスケールの愛憎劇とは?>

マーティン・スコセッシ監督の『沈黙─サイレンス─』(2016年)が公開された際、これが彼の最後の作品にならないよう願いつつも、瞑想的で彼の思い入れ深い作品は傑出したキャリアの締めくくりにふさわしいと思った。

以来7年間、彼は超大作『アイリッシュマン』や遊び心あふれるセミドキュメンタリー『ローリング・サンダー・レヴュー:マーティン・スコセッシが描くボブ・ディラン伝説』を世に送り出してきた。

巨匠は現在80歳、キャリアは優に60年、このまま最も愛され影響力のある芸術家という栄冠に安住し休養しても不思議はない。だがこれまでの生き方とキャリアを厳しく見つめ直すかのような最近のインタビューからも分かるように、彼は過去の栄光に安住する人間ではない。

デイビッド・グランの同名ノンフィクションに基づく最新作『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』は、巨匠にとって新境地──つまり初の西部劇、非白人の登場人物を描く初の映画、そして女性の体験を取り上げる数少ない作品の1つだ。

本作では米先住民族オセージの女性モリー(リリー・グラッドストーン)が物語の中心的存在となる。

1920年代、米オクラホマ州。法的にはオセージの土地である石油地帯で残虐な殺人事件が相次ぎ、不安が広がっていた。大草原に開拓集落が点在する一帯は、スコセッシ作品でおなじみの都会のジャングルにどこか通じるものがある。

社会的階層は覆され、未舗装のみすぼらしい通りでオセージの富裕な一族が豪邸に住み、宝石や毛皮を身に着け、白人のお抱え運転手付きの高級車を乗り回す。

だがオセージには財力はあっても政治的・社会的な力はない──正確には、その力を行使する自由がない。モリーとその家族を含め、多くの石油利権保有者は自分の資金を利用するのに白人の「後見人」が必要なのだ。

それもあって、ここではオセージの女性と白人男性の結婚は珍しくない。モリーの姉妹の夫も白人で、彼女自身も一家のお抱え運転手アーネスト・バークハート(レオナルド・ディカプリオ)と結婚する。

アーネストのおじのウィリアム・ヘイル(ロバート・デ・ニーロ)は地元の有力者でオセージのコミュニティーと付き合いが長い。

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