<決選投票にもつれこんだトルコ大統領選。独裁的体制と経済低迷が続いても国民の「草の根のナショナリズム」は終わらない>

小雨が降る朝、トルコの最大都市イスタンブールの人通りは少ない。それでもエルドアン・ベイは、だぶだぶのピンストライプのスーツに、サングラス姿で外出することにした。

イスラム教徒の祈禱用ビーズを手にし、もう片方の手の指にたばこを挟んだ彼は、街角の店で腰を下ろして紅茶を飲む。その背後には、小さなトルコ国旗がテープで貼り付けられている。

あなたの名前は本名か、と聞いてみた。トルコ語で「ベイ」は、男性に対する敬称だ。彼は笑い、たばこを深く吸ってから、テーブルの上に身分証明書を勢いよく置いた。

生まれてから70年間、ベイはずっとイスタンブール市内のカスムパシャ地区で暮らしてきた。高級住宅街に隣接する低所得層労働者の町だ。

子供時代はサッカーに夢中だった。同じくカスムパシャ出身で同じ名前で、ほぼ同じ年齢のトルコの大統領、レジェップ・タイップ・エルドアンがそうだったように......。

10代の頃に食料雑貨店を始めたベイは、妻も子供もなく、パスポートも持っていない。故国があれば、十分だからだ。

紅茶をおごると言って、彼は譲らない。紅茶1杯の値段は3トルコリラ。3年前はドル換算で50セントに相当したが、今では15セントだ。

「トルコのような国がほかにあるか? 外国に旅行する必要などない。ここにはアンタルヤも、コンヤも、イズミルもある」。自分が訪れたことのない国内の景勝地を、ベイは指を折って数え上げる。

20年前、カスムパシャは汚く荒れ果てていたという。

「住民であることが恥ずかしかったが、今はどうだ! モスク(イスラム礼拝所)が改修され、道路はきれいで新しい店もレストランもある」

トルコの好景気と歩みを合わせて、ベイの小さな店も一時期は繁盛した。だがどちらも、もはや過去の話だ。この頃はベイが地元を離れることはめったにない。近所でお茶を飲み、モスクへ行き、友人に会う。

ただ先日、イスタンブールを旧市街と新市街に分ける金角湾の対岸へ出かけた。トルコ海軍の新型艦艇で、世界初のドローン(無人機)搭載可能な強襲揚陸艦「アナドル」を見るためだ。

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