愛犬と2人で暮らすバイオリン奏者の老人コルムは穏やかで優しい男だが、どうにも平凡なパードリックよりずっと暗くて複雑。コルムが友情を捨てる決心をしたのも、パードリックのせいではなく、むしろ自分の寿命を意識したことに関係があるようだ。

残された人生があと何年であろうと、ただバイオリンを弾いて静かに暮らしたい。コルムはそう思っていて、誰に尋ねられても、同じ説明を繰り返すのみだ。

笑いがホラーな展開に

コルムがパードリックを拒絶する理由を説明しないのと同じように、監督のマクドナーはけんかする2人のどちらにも肩入れしようとはしない。

最初、観客はパードリックと同じように、コルムの非情さに混乱し、傷つく。しかし理性的な説得から卑劣な報復まで、あらゆる手を使ってコルムを取り戻そうとするパードリックを見ているうちに、自分の世界を守ろうとするコルムの姿勢に共感し始める。

やがてコルムは、執拗に付きまとう友人への怒りを自己破壊に向け、おまえが私に話しかけるたびに、私ははさみで自分の指を一本ずつ切り落とすぞと通告する。ここからはホラーの世界だが、哲学的な重みや素朴なユーモアが失われることはない。

懐かしいハープとフルートを軸としたカーター・バーウェルの音楽と、絵画的でワイドなベン・デービスの映像は伝説に彩られたアイルランドらしさを高める。

カメラを大胆に引いた場面が何度も登場し、崖っぷちの村の住民のちっぽけさと孤独を強調する。黒いマントを着て島を歩き回り、登場人物の運命について謎めいたことをつぶやく老女マコーミック(シェイラ・フリットン)のキャラクターも、なにやら魔術的なムードを盛り上げる。

だが、頑固で孤独な2人の男が繰り広げる物語は超自然的なものではなく、真に悲劇的かつ人間的なものだ。

いったい何だったのだろうと途方に暮れる