<衝撃的オープニングの謎、そしてアメリカ映画へのオマージュと批判を2時間に凝縮するなんて無理──を承知で挑んだ心意気。「最悪の奇跡」の話題作、ついに日本公開>

懐かしいマカロニ・ウエスタンやエイリアンの襲来劇、深いトラウマを抱えた男や愚かしい人類の環境破壊の物語、そして19世紀末に始まるアメリカ映画産業の歴史と功罪をめぐる素敵な考察──。

コメディアンでもある黒人監督ジョーダン・ピールの長編第3作(脚本も監督が手掛けた)『NOPE⁠/ノープ』には、そのどれもが含まれるが、何かが足りない感じもする。

過去2作に比べるとずっと巨額の予算を投じ、スケールも大きい作品で、監督はさまざまなジャンルや映像、アイデアを一緒くたにし、力ずくですりつぶしている。

ただしシニカルではなく、大ヒット狙いの映画でもない。むしろ監督のビジョンを独創的な形で表現した作品であり、それでもまだ監督の頭の中には消化し切れない何かが残っているようだ。

そもそも、わずか2時間余りの上映時間に小説1冊分の複雑なテーマを詰め込もうというのが無謀な冒険だ。結果として物語は猛スピードで展開し、時間はあっという間に過ぎていく。おかげで映画的には素晴らしくスリリングな結末へと向かうのだが、物語としてはどうも引っかかるところがある。前半の1時間で提示された重い問題のいくつかは、答えのないままに終わっている。

それを消化不良と感じるか、問題意識の濃さ・深さとみるか。それは見る人によって異なるだろうし、同じ人でも見るたびに異なるかもしれない。だから筆者は、この映画を何度でも見たいと思う。

さて、まずは前半の1時間。ハリウッドに程近い砂漠地帯にあって、映画業界の周縁部で食いつないでいる2つの小さな会社が舞台だ。

1つは「OJ」の愛称で呼ばれるオーティス・ヘイウッド・ジュニア(ダニエル・カルーヤ)と妹のエメラルド(キキ・パーマー)が切り盛りする先祖代々の牧場。映画に出演する馬を育て、訓練して大手のスタジオに貸し出すのが仕事だ。

序盤の印象的な場面で、エメラルド(通称エム)はCM撮影の準備をしているスタッフに、映画の原型とされるエドワード・マイブリッジの連続写真(1878年)で競走馬にまたがっている黒人騎手こそ自分とOJの高祖父の父だと自慢げに告げる。

衝撃的オープニングの謎

OJとエムの父親オーティス・シニア(キース・デイビッド)は、冒頭すぐに謎めいた死を遂げる。思慮深いOJと陽気で夢見がちな妹エムは疎遠だったが、父の死をきっかけに仲直りし、牧場ビジネスを守るために力を合わせる。

映画産業への敬意と嫌悪