「菅政権の誕生で地域経済活性化への機運が高まれば、地銀は今まで以上に危機感を高めて、自社の効率化や地域貢献できる金融機関としての事業を強化する努力をすることになるだろう」と、三菱UFJモルガン・スタンレー証券で金融業界を担当する辻野菜摘シニアアナリストは話す。

「SBIが提供する枠組みは地銀にとって一層魅力的なものと映り、その点でSBIにとっては追い風となる可能性がある」と、辻野氏は指摘する。

関係者によると、菅首相と北尾社長は折に触れて携帯電話で連絡を取り合う仲だという。菅氏は官房長官時代の8月下旬、ロイターのインタビューに応じ、「地方銀行の数が多いのは事実」と語った際、自ら北尾氏の名前を挙げ、「(地銀から)いっぱい相談が来ているみたいですよ」と話している。

SBIの広報担当者は菅首相と北尾社長の交流についてコメントを控えた。

地方に足場

地方の人口減少や長引く低金利などで、地銀の収益には下方圧力がかかっている。金融庁によると、第一地銀と第二地銀を合わせた地方銀行の純利益は減少傾向にあり、20年3月期は16年3月期より41%減った。合併によって銀行数が106行から103行に減ってはいるものの、4割の減益幅は大きい。

それでも金融業界の関係者の中には、手を差し伸べるSBIの動きを警戒する向きもある。強いリーダーシップで知られる北尾社長の行動が、金融界で波紋を呼んだことがあるからだ。

北尾氏は昨年7月、日本仮想通貨交換業協会(現・日本暗号資産取引業協会)の理事を退任した。直後にロイターがSBI広報に問い合わせたところ、北尾氏はまだ交換業を開業していなかった事業者が協会の会長を務めていたことなどを批判。自身が会長に立候補したが、外部出身の理事を入れずに選考が進められたことなどに反発したという。

協会の統治体制を批判するための退任だったが、「北尾氏は根回しもせずに会長に手を挙げた。『お山の大将』になりたいだけなのではないか」(業界関係者)との声が出ている。

地銀と組むことで、SBIにとっては手付かずだった地方に足場を築くことができる。地方は人口が減り続け、三大都市圏に比べると保有する金融資産も少ないが、2014年の「全国消費実態調査」(総務省)を基にみずほ総合研究所が作成した資料によると、その約6割以上が預貯金。株式投資などには回っていない。

「北尾氏の関心は自身の帝国を拡大することだ。出資先の銀行が生き残ろうが、つぶれようがということは問題ではない」と、ウィンダミー・リサーチのアナリスト、ブライアン・ウォーターハウス氏は言う。「資本の増強や救済を模索する銀行にとって、今は北尾氏のみが唯一の選択肢かもしれない」と、同氏は話す。

SBIの広報は、新政権の政策でどのような追い風を受けそうかという問い合わせにコメントしなかった。

SBIは提携戦略を狙い通りに進められるのか。ともに利益を手にすることができる関係を構築できるかが鍵を握りそうだ。

北尾社長は7月上旬のインタビューで、「行員全部の意識がトップから下まで変わらなければならない」と語った。提携先の銀行に、2019年に上映された映画「二宮金次郎」を見るよう勧めているという。

(梅川崇、和田崇彦、藤田淳子 編集:久保信博)

[ロイター]
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