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香港の治安警察に囲まれる民主派デモの参加者(5月27日) TYRONE SIUーREUTERS

やる気はあっても力不足

19年末の政府債務はGDPの40%未満だと当局は主張するが、IMFの推計では80%を超えている。中所得国としてはかなりの高水準だ。

家計消費に成長を頼ることも困難になるだろう。パンデミックで失われた雇用は7000万人以上。今年は中国の大卒者870万人の相当部分が就職できそうにない。

家計も高水準の負債を抱えているため、消費の回復も期待できない。ここ数年、中国の消費者も政府と同様に多額の借金を積み上げ、現在の家計負債はGDPの56%に膨れ上がっている。クレジットカードの融資総額はアメリカを上回る。

以上のような経済的苦境を考えれば、中国経済が早期にコロナ以前の力強さを取り戻すことは難しそうだ。経済が停滞すれば、共産党は中流層の支持を失う危険性がある。中国の中流層は数十年間の繁栄を享受してきた後、初めて生活水準の低下を経験する可能性が高い。

社会不安が高まりかねない状況を受けて、習はこれまで以上に強権的な権力維持策を取らざるを得ないはずだ。新型コロナの感染拡大後、習は権威を高めるため、汚職との戦いを口実に党内で新たな粛清を断行している。4月以降、公安省の副大臣を含む4人の高官が身柄を拘束された。

共産党は同時に弾圧の強化にも乗り出した。これまでに著名な不動産王など、習近平に批判的な大物が次々に拘束されている。香港への国家安全法導入は、どんな犠牲を払ってでも反対派をつぶすという共産党の決意を改めて示すものだ。

経済の低迷が政権の正当性を傷つけかねない事態に直面した共産党は、ナショナリズムのアピールに力を入れている。短期的には、この戦術は奏功しているようだ。

アメリカの経済・外交両面での対中攻勢は中国の力を弱めたかもしれないが、同時にアメリカはあらゆる手段を使って中国の封じ込めを図っているという共産党のプロパガンダに説得力を与える結果になった。習近平の強権的な統治とナショナリズムに頼る戦略は一定期間、習の権力と共産党の一党支配の維持に成功する公算が大きい。

だが、国家統制型の経済政策と米中冷戦は徐々に経済の停滞を招くはずだ。そのため中国当局の最優先課題は対外的な拡張ではなく、体制の存続になる可能性が高い。

中国政府がもっぱら国民の歓心を買うため、近隣諸国、特に台湾に対して居丈高な姿勢を維持することは間違いない。それでもアメリカとの直接的な軍事衝突という悪夢の可能性は、ほぼ確実に中国の行動を抑制するはずだ。従って中国の威嚇を本気と受け取るべきではない。

結局のところ、エスカレートする米中冷戦、厳しい地政学的環境、国内の経済ファンダメンタルズ悪化という複合的な圧力が、中国の対外的な影響力拡大に歯止めをかけるはずだ。新型コロナのパンデミックは中国政府にとって絶好のチャンスになるかもしれないが、その野心を後押しする富や人的・物質的資源の余力は乏しい。

たとえ中国政府にその気があったとしても、実行する力はない。

<本誌2020年6月30日号「中国マスク外交」特集より>

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