ジョコ大統領は強硬派と対話路線派の板挟みに

こうしたパプア治安情勢の悪化に対し、ジョコ・ウィドド大統領は有効な解決手段を未だに見いだせず、元国家警察長官の内務相や国軍幹部だった国防相や大統領首席補佐官らを中心とする「パプア問題への強硬対処派」と、「福祉充実による対話路線という柔軟姿勢」を主張するイスラム教指導者でもある副大統領らの板挟み状態となっているのが現状だ。

3月28日、主要メディアのテンポ電子版は「パプア問題で対話を始めるべきだ」との記事を掲載し、ジョコ・ウィドド大統領に指導力を発揮して新たな特別チームを創設してパプア問題の解決に向けた対話を早急に始めるべきだと主張した。

提言は、対話には現地行政当局だけではなく全てのパプア人の権益を代表するメンバーを加えること、また道路建設や教育環境の整備といった目に見えるインフラだけでなく、治安部隊の縮小やこれまでの治安部隊によるパプア人への数々の人権侵害事件に対する真相解明などのアプローチが必要不可欠になる、といった内容になっている。

特に2019年のパプア地方の経済成長はマイナス15.7%という厳しい経済状況にあることに鑑みて、経済面での支援を拡大するためにも新アプローチでパプアの人々に政府としての正義を示し、パプアの人々の信頼を得ることから始めなくてはならないと厳しく指摘している。

新型コロナウイルスの問題にパプアは埋没

インドネシア政府は今、新型コロナウイルスの感染拡大の対策で連日手一杯な状況で、他の政策や課題に取り組んでいる余裕も時間もない。そうした事態のなか感染症対策とはいえ海路、空路の交通を遮断して州全体を「封鎖」しているパプア地方で一体なにが起きているのか、政府も地元マスコミも関心が薄れているのが偽らざる実況だ。

そうした情報途絶に近い状態の中で、増強された治安部隊による武装組織掃討の名目で住民への人権侵害事案が増えているとの情報もある。そんななか発生した今回の武装グループによる襲撃事件は「忘れられようとしているパプア問題」への注意喚起、世論の注目を狙ったものという見方も浮上している。

コロナウイルス問題とともにパプアの治安問題はジョコ・ウィドド大統領に待ったなしの緊急対応を迫っている。

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[執筆者] 大塚智彦(ジャーナリスト) PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など
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