アン・ハサウェイに最大級の賛辞を贈るとしたら、さしずめ今年7月に全米公開されたクリストファー・ノーラン監督の『オデュッセイア』について語るべきだろう。「伝えられてきた話は本当だわ。私たちの文明は崩壊しかけている」といったせりふを、彼女は真顔で言うばかりか、完全に役柄になり切って言う。
この映画でハサウェイが演じるのはオデュッセウスの帰還を待ち続けるけなげな妻、ペネロペ。脚本ではほとんど肉付けされていない役柄だが、ハサウェイが演じると見事に血の通った女性になる。しかもペネロペが話す相手は主に息子のテレマコスだ。この役を演じるトム・ホランドは明らかなミスキャストで頼りない受け答えしかできない。だからハサウェイの迫真の演技は奇跡と言っていい。
私は何も『オデュッセイア』をけなすつもりはない。この映画にはノーラン作品の魅力も欠点もふんだんに詰まっているが、差し引きすれば前者のほうが多い。ただし、故郷でペネロペが求婚者たちに悩まされる場面になるたびに、ストーリーは失速する。
ドラマチックな展開を盛り込めないノーランは彼がよく使う手段に頼る。作品のテーマを説明するスローガンのようなせりふを登場人物に言わせるのだ。そんな中にあっても、ハサウェイはペネロペのさまざまな顔を──ある時は毅然とし、ある時は怒り、策略を巡らせ、切望するペネロペを生き生きと演じ、観客の興味をつなぎ留める。
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