急速に進歩するAIは医薬品開発にどんな革新をもたらすのか。

学術系ニュースサイト「ザ・カンバセーション」のサイエンス・テクノロジー担当エディター、エリック・スモリーが、ジョージア工科大学のジェフリー・スコルニック卓越教授(計算生物学)と、バンダービルト大学のベンジャミン・P・ブラウン助教(薬理学)に話を聞いた。

スコルニックは、AIを用いてタンパク質の構造と機能を予測する手法の開発に取り組んできた。このアプローチは、新薬の開発や既存薬の新たな用途の発見に役立つ可能性を持っている。一方、ブラウンの研究室では、新薬開発の迅速性と確実性を高めるための新しいコンピューターモデルの開発を目指している。

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──まず全体像から聞かせてほしい。AIは生物医学研究と新薬開発をどのように様変わりさせつつあるのか。AIの活用には、どれくらい大きな可能性があるのか。

スコルニック 潜在的な利点はとても大きい。新薬開発では、並外れて優秀な人たちが並外れて質の高い仕事をしているが、それにもかかわらず、成功の確率は非常に低い。

医薬品開発のプロセスでは、カギを握る問題がいくつかある。病気を引き起こす原因を特定できるか。そして、薬が効き、しかも患者を死なせることもないと、どうやって保証するか。

これらの点でAIは大きな役割を果たせる可能性がある。ただし、成功が100%保証されているわけではない。うまくいけば強力で正しい関連性を見いだせるが、うまくいかない場合は、いわゆる「ハルシネーション(幻覚)」を引き起こし、不確かで、おそらく誤った関連性を見いだしてしまう。

治療法が存在しない病気も多く、高コレステロール血症や自己免疫疾患など、大半の病気は長く管理し続けなくてはならない。その点、癌がステージ4の段階にあり、標準治療の薬を全て使い果たしているなど、ほかに選択肢がない場面で、AIは新しい案を示せるかもしれない。

──一口に「薬」と言っても、低分子医薬品、生物学的製剤、遺伝子治療、細胞治療など、さまざまなものがある。違いを教えてほしい。

ブラウン 人の体内にあるタンパク質は、機械のように特定の機能を果たし、相互に作用し合っている。病気を治療する際は、特定のタンパク質の機能を変えることを目指す場合が多い。(鎮痛剤の)アスピリンやタイレノールなど、多くの薬はタンパク質と結合してその機能を変える働きを持つ。

一方、抗体のように、それ自体が薬として働くタンパク質もある。

大ざっぱに言えば、ワクチンを接種すると、体は抗体のつくり方についての指示を受ける。体はアスピリンよりずっと大きな分子である抗体をつくり、(ウイルスなど)体外から来たタンパク質に働きかける。遺伝子治療は、それを一段と大きく進化させた治療法だ。

これらの治療手段は、それぞれ全く異なるタイプの分子を用いている。設計や創薬で求められるアプローチもそれぞれ大きく異なる。

──グーグル・ディープマインド社が開発したAIモデル「アルファフォールド」のようなテクノロジーは、生物医学研究の分野でどのように活用されているのか。

ブラウン 2013年、分子動力学シミュレーションの研究にノーベル化学賞が授与された。分子動力学シミュレーションとは(タンパク質などの)分子の動きをコンピューターで計算するための手法だ。このアプローチを基盤とする膨大な数の科学研究が蓄積されてきている。

最近はディープラーニング(深層学習)が大きな注目を集めているが、過去15年ほど、もっと小規模な機械学習アルゴリズムを駆使した医薬品設計が行われてきたことも見落とせない。(機械学習を利用した新薬候補の選別など)多くのアイデアは最近登場したものではなく、しばらく前から実践されてきた。

アルファフォールドの技術によってタンパク質の設計や構造予測が実現し、このような問題の多くに関して考え方が変わった。新しいアプローチの選択肢がいくつも登場して、そうした新しい手法を軸に新薬開発の方策を考える道が開けた。

──20年前と比べて、現在のAI技術は新薬開発のプロセスにどの程度大きな変化をもたらしているのか。

スコルニック 癌など多くの病気は、いくつかのタンパク質が異常な働きをすることによって引き起こされる。AIの登場により、そのような病気の相互の関連性を抽象化して理解できるようになった。

いくつかの病気が併発するケースは珍しくない。例えば甲状腺機能亢進症の患者は、アルツハイマー病を発症する可能性も極めて高い。

不思議な現象に思えるかもしれないが、AIは断片ではなく全ての情報を基に、それらの病気に共通する要因を突き止めることができる。そうすれば、病気同士の相互の関係を明らかにし、個々の病気だけを対象とする治療法ではなく、いくつもの病気をまとめて治療できる方法を開発できる可能性が出てくる。

AIは病気の軌跡を理解するのにも役立つ。併発しやすい複数の病気は、一定の順で発症することが多い。病気Aになると病気Bになり、そうなると病気Cになるという具合だ。

この場合、最初の病気Aを防ぐ方法を見つけられれば、その後に起きる数々の問題を防げる可能性がある。(AIの)ツールがなければ膨大な量のデータ分析は不可能なので、以前はそのような研究はできなかった。

大きな可能性を秘めていることは事実だが、過大な期待は禁物だ。AIが新薬開発を加速させるとしても、現時点では実際の実験や臨床試験が不要になったわけではない。
 

The Conversation

Jeffrey Skolnick, Regents' Professor; Mary and Maisie Gibson Chair & GRA Eminent Scholar in Computational Systems Biology, Georgia Institute of Technology and Benjamin P. Brown, Assistant Professor, Department of Pharmacology, Vanderbilt University

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

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