Dhara Ranasinghe Harry Robertson
[ロンドン 1日 ロイター] - 米国、ドイツ、日本をはじめとする主要国で、政府の借り入れコストを示す国債利回りが数十年ぶりの高水準、あるいはそれに近い水準まで上昇している。背景には、インフレの長期化や利上げへの警戒感に加え、各国の財政赤字と債務残高を巡る不安がある。
高い利回りは家計や企業の資金調達コストを押し上げるだけでなく、政府財政にもさらなる負担を与えかねない。
こうした動きの裏側で展開されている事態を示した。
◎何が起きているのか
日本の10年国債利回りは1日に一時1996年以降で初めて3%台に達し、超低金利時代からの脱却が進む日本経済にとって、大きな節目となった。
一方、英国の30年国債利回りは30年ぶりの高水準に上昇。ドイツの10年国債利回りは2011年以来、フランスの10年国債利回りは08年以来の高水準に達している。米国でも30年国債利回りが8月初旬に07年以来の高さを記録した。
こうした利回り上昇をもたらしている1つの要因は、米国とイランを巡る緊張の高まりによる原油価格の再上昇だ。エネルギー価格上昇はインフレ圧力を強めるため、市場では今後さらに利上げが行われるとの見方が強まっている。米連邦準備理事会(FRB)のウォーシュ議長がジャクソンホール会議でタカ派的な発言を行ったことも、市場の追加利上げ観測を後押しした。
金利上昇は各国の財政事情への懸念も助長させる。米国の政府債務残高はついに40兆ドルを突破したほか、主要7カ国(G7)ではドイツを除き、政府債務
残高の対国内総生産(GDP)比率が100%前後、もしくはそれ以上の水準にある。
◎なぜ注意が必要か
国債利回りは経済全体の借り入れコストの基準となる。政府の資金調達だけでなく住宅ローン、自動車ローン、学生ローンなどにも影響を及ぼすため、利回り上昇は借り入れや消費を抑制し、経済成長の減速につながる恐れがある。
例えば米国では、30年固定住宅ローン金利が約1年ぶりの高水準となる6.7%近くまで上昇しており、これは米10年国債利回りの上昇を反映した動きだ。
また政府にとっては債務の借り換え時により高い金利を負担しなければならなくなる。英国では借り入れ拡大と利回り上昇の結果、利払い費がGDPの約4%に達しており、新型コロナ禍前の平均水準のほぼ2倍となっている。英予算責任局(OBR)によれば、この負担は既に国防予算を上回る規模に達した。
国債利回りの上昇は金融市場全体にも波及し、理論上は金利上昇によって株式の魅力が低下する。もっとも現在は企業業績が堅調なため株価は比較的底堅く推移している。一方、多額の借り入れを活用して取引を行うヘッジファンドなどには圧力がかかってもおかしくない。
◎ハイパースケーラーとの関係
利回り上昇の一因として、人工知能(AI)投資のための大規模な社債発行も指摘されている。市場関係者が言及するのは需要と供給の法則が働いている点で、借り手が急増すれば、資金の貸し手はより高い金利を要求できるため、結果として利回りが上昇する。
LSEGのデータによると、AI分野で積極的な投資を進めるアルファベット、アマゾン・ドット・コム、メタ、マイクロソフト、オラクルの5社は、今年に入って既に2200億ドルの債券を発行している。これは昨年全体の2倍を超える規模だ。
こうしたAI関連投資向けの資金調達により、世界の社債発行額は今年これまでで累計4兆9000億ドルに達し、前年同期比で14%増加して過去最高水準となった。
◎政府や中央銀行にできること
米財務省は最近、国債買い戻し拡大計画を発表し、市場関係者の間では、これは借り入れコストのさらなる上昇を抑えることを目的としているとみられている。ただ発表直後は市場の安定化に一定の効果があったものの、その後長期国債利回りは上昇基調に戻ってしまった。
ベセント米財務長官は、政府債務や利回り上昇への懸念について「米国経済の強さを過小評価している」との見解を示している。
中銀にも市場安定化の手段がある。例えば2022年の英国のいわゆる「ミニ予算危機(トラス・ショック)」では、イングランド銀行(BOE)が国債を買い入れて市場を支えた。また欧州中央銀行(ECB)は「伝達保護手段(TPI)」を通じて、借り入れコストが不当かつ無秩序に上昇した場合、加盟国の国債を買い入れる権限を持つ。とはいえ、その国がEUの財政規律を順守していることが条件となる。
◎債券自警団の存在
現在の利回り上昇は市場の混乱に起因するのではなく、政府借り入れの増加とインフレ圧力を反映した合理的な動きだ、というのが多くの投資家の考えだ。短期的には、原油価格が下落すれば利回り上昇圧力は和らぐかもしれない。しかし長期的に借り入れコストを持続的に引き下げるためには、政府が債務削減に取り組むか、経済成長を加速させる必要があるとの意見が大勢を占める。
そうした取り組みが進まなければ、政府の財政運営が放漫だと判断した場合、その国の国債購入により高い利回りを要求することで、財政規律を促そうとする投資家を指す「債券自警団」は引き続き警戒を強めるだろう。
財政面以外に、政策当局がインフレ抑制に失敗していると判断された場合にも、投資家はより高いリスクプレミアムを要求する。その結果として、国債利回りはさらに上昇する可能性がある。