アルメニアの首都エレバンでも、昨年9月の市議選を経て人気コメディアンのハイク・マルチアンが市長に就任。当初は、市内の観光名所「エレブニ要塞」での4Dライトショーの実施を公約に掲げていた。

好感度の高さだけがコメディアンの強みではない。敵をこき下ろすジョークには笑いを取るだけでなく、肝心な論点から有権者の目をそらす効果もある。ソーシャルメディアの台頭で、この効果は一層高まった。選挙戦中の面白い発言がどんどん拡散され、有権者の関心は政策よりもそちらに集まってしまう。

しかもネット時代にはメディアも視聴者や読者の注目を引こうと必死で、政治ニュースがエンターテインメント的な性格を帯びつつある。そうなると、派手な候補のほうが断然有利だ。

その典型が、16年米大統領選のドナルド・トランプだろう。対抗馬に無遠慮に個人攻撃を加え、おバカなコメントを連発。メディアは日々その動向を伝え、「トランプ旋風」をあおる結果になった。

リスクには注意が必要

筋金入りのEU懐疑派で、ロンドン市長を務めた後、昨夏に辞任するまで外相の座にあったボリス・ジョンソンも、おちゃめな親しみやすい政治家として知られる。差別発言などが問題になっても、人気が衰えないのはそのおかげだろう。

もともと認知度が高く、ソーシャルメディアでの自己PRにもたけたコメディアンは、既成政治に不満を持つ人々の支持をつかみやすい。そうは言っても政治経験の少ない候補者に希望を託すのは、不合理にも見える投票行動だ。

だがそれも、行動経済学の観点からは「確実な損失」を避ける行動として説明できる。既成政治家が居座れば、現状が続くのは目に見えている。政界のアウトサイダーに賭けたら、少なくとも何らかの変化が起きるだろうと、有権者は考える。

ただし、政権運営には実務能力や知識や経験が求められる。アウトサイダーは選挙戦では有権者を大いに沸かせても、有能なリーダーになるとは限らない。

コメディアンに未来を託す危うさは、グアテマラを見れば分かる。モラレス大統領は1月、国連との合意で設置された汚職調査委員会の廃止を一方的に通告した。

政治に対する無関心や将来への不安が社会を覆っている今、コメディアンが政治に果たす役割は無視できない。一方で忘れてはならないのは、どんな形であれポピュリズムにはリスクが伴うこと。有権者が冷静な判断をするために、ファクトチェックの重要性は増すばかりだ。

そもそも有権者は、なぜ既成政治に愛想を尽かしたのか。政治エリートは根本原因を見つめ、コメディアンがどうやって聴衆を沸かせ、聴衆の心を捉えるか、じっくり研究することだ。

From Foreign Plicy Magazine

<本誌2019年03月12日号掲載>

※3月12日号(3月5日発売)は「韓国ファクトチェック」特集。文政権は反日で支持率を上げている/韓国は日本経済に依存している/韓国軍は弱い/リベラル政権が終われば反日も終わる/韓国人は日本が嫌い......。日韓関係悪化に伴い議論が噴出しているが、日本人の韓国認識は実は間違いだらけ。事態の打開には、データに基づいた「ファクトチェック」がまずは必要だ――。木村 幹・神戸大学大学院国際協力研究科教授が寄稿。
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