
日本の外務大臣に相当するチベット亡命政府情報・国際関係省ノルジン・ドルマ大臣(左)から3冊目の自叙伝Voice for the Voicelessを贈られる筆者(右)。(2025年11月18日、インド・ダラムサラチベット亡命政府情報・国際関係省にて撮影)。
また、現代中国政治史を専門とする筆者にとって、ダライ・ラマの毛沢東や周恩来といった中国共産党指導者たちに対する印象も興味深い。とりわけ注目されるのは、1954年に北京で会見した毛沢東についての記述である。
ダライ・ラマは毛を「非凡な人物」と形容し、「風貌からは、知的な能力を示す気配はなかったし、健康そうにも見えなかった」、「言葉数は少なく、短いセンテンスで話したが…(中略)…話し方は聴く者の心と想像力とを、間違いなくとらえ、親切さと誠実な印象を与えた」と述べている。
さらに、驚くべきことに、チベットにおける迫害を「毛沢東が承認し、支持した、とは信じがたい思いである」とも記している。
これに対して、もう一人の重要人物である周恩来への印象は対照的である。ダライ・ラマは、周が毛ほど率直ではないように思えたと述べ、さらに彼が手がける計画は無慈悲かつ冷酷に推進されるだろうという印象を受けたと回想している。
「後日、彼がチベット弾圧政策を承認したと聞いたとき、毛沢東の場合とは違って、私は少しも驚かなかった」という記述も注目に値する。これらの叙述は、中国共産党指導者の個性に具体的な輪郭を与えるものであり、中国政治を考えるうえでも重要な証言である。
本書は、自伝であると同時に、チベット・中国関係を当事者の言葉から読み解くための一級の証言資料でもある。そして、亡命直後、とてつもなく大きな重責を担った青年が世界に向けて語る言葉でもあった。いわばダライ・ラマの原点がここにあるといってよい。
金牧功大(Kota Kanemaki)
慶應義塾大学法学部専任講師。防衛大学校教官(非常勤)。専門は現代中国政治、特に共産党のチベット政策。慶應義塾大学法学部、同大学院法学研究科修士・博士課程、大学院助教、法学部非常勤講師などを経て現職。2025年、インドにてダライ・ラマ14世に謁見した。コーヒーマイスターの資格を有し各種コーヒー競技会で審査員を務めるほか、スクーバダイビング・インストラクターでもある。趣味はサボテンや珍奇植物栽培。「中国共産党の対チベット政策」にて、サントリー文化財団2021年度「若手研究者のためのチャレンジ研究助成」に採択。
『チベットわが祖国──ダライ・ラマ自叙伝』
ダライ・ラマ[著]
木村肥佐生[訳]
中央公論新社[刊]
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