Tamiyuki Kihara Yoshifumi Takemoto

[東京 13日 ロイター] - 片山さつき財務相兼金融相が表明した年金基金による国内投資強化策について、政府が年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の基本資産構成割合(基本ポートフォリオ)の変更を現時点で想定していないことが分かった。事情を知る政府関係者はロイターの取材に、発言の主眼は「骨太ショック」の沈静化にあったと明らかにした。直ちにGPIF中期目標改定といった具体的な動きにはつながらない見通しだが、現行の乖離許容幅の範囲内で投資強化を図るなど有効な方策を探るという。

<関係者は「運用割合の変更は想定していない」>

片山氏は10日の閣議後会見で「GPIFをはじめとする年金基金に、日本の金融資産にさらなる投資をしていただく後押しをする方策を追求したい」と発言。市場は運用資産額293兆円のGPIFが国内債券などへの投資を拡大するとの連想を強め、即座に円高・債券高で反応した。

しかし、複数の政府関係者はロイターの取材に対し、GPIFの基本ポートフォリオ変更を検討しているとの見方を否定した。関係者の一人は13日、「市場がここまで反応するとは思わなかった」とした上で、「片山氏の発言は運用割合の変更まで想定したものではなかった」と認めた。政府内では14日に予定される片山氏や上野賢一郎厚生労働相の閣議後会見での発信内容について検討が進んでいるが、同関係者は「投資強化策について検討する」以上に大きく踏み込んだ発信は難しいとの認識も示した。

一方、GPIFは現行の中期目標の中でポートフォリオを国内外の債券・株式25%ずつと定め、国内債券については上下6%の乖離許容幅を設けている。前出の関係者は乖離幅の範囲内での国内債券への振り向けを検討する可能性は否定しなかった。年金積立金である以上、運用には慎重さが求められるとも述べ、乖離幅の範囲内であっても国内債券への投資を強化する場合は説得的な説明が必要だと指摘。「政権の意向で積立金を毀損するようなことになれば大きな批判を受けるリスクもある」とも語った。

運用割合変更を想定しているか否かについて、GPIFを所管する厚生労働省の担当課はロイターの取材に「コメントを差し控えたい」とした。

<「骨太ショック」への対応と米国の意向>

こうしたリスクがあるにもかかわらず、片山氏が発言した背景には、「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」の原案が報じられたことに端を発する金利上昇と円安があったという。6月30日に公表した原案では、歴代政権が言及してきた「財政健全化」の文字が消失。高市早苗政権が日銀の政策金利引き上げに対して否定的との見方も改めて広がり、円安・債券安が一層加速した。経済官庁幹部は「長期金利の上昇をどう抑えるかを検討した結果、突然GPIFの話が出てきた」と明かした。

同関係者は「金利上昇は許さないという政府のメッセージ発信は成功した」と説明。一方、先行きの不透明感にも触れ、「実際にポートフォリオを変更するなどの動きが見えなければ、市場はすぐに失望するだろう」とした。今後の市場動向によっては具体策の実現を目指す可能性があるともした。

片山氏の発言をめぐる一連の動きについて、野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは「官民投資促進の意味で、片山大臣はGPIFが国内にもっと投資するべきとの考えを持っているのだろう」と分析。「基本ポートフォリオの見直しまでいかなくても、一定の裁量の範囲での国内投資拡大は可能だと考える」とし、長期金利の上昇を背景に、円債は相対的にリターンの高い安全資産でもあるとした。

一方、「従来から米国は為替報告書などでGPIFの海外投資拡大を円安誘導要因と指摘、批判してきた」とも指摘。GPIFの国内投資拡大策には「米国の批判へのけん制の意味合いはあるかもしれない」と語った。

みずほ銀行の唐鎌大輔チーフマーケット・エコノミストは、GPIFの基本ポートフォリオは「市場の急激な変動などが生じる可能性がある」などと経営委員会が必要性を認めれば適宜見直しが可能である点を強調。「為替にせよ、債券にせよ、『市場の急激な変動』が認められても不思議ではない状況にある」とした上で、現在の中期目標が適用される2029年度を待たずに修正される展開も「否定できない」と語った。

その場合の例として、日銀の利上げペースが想定を上回り、日本国債の利回りが「年金財政を維持するのに十分」と判断される水準にまで上昇し、それが持続的だと判断された場合を挙げた。実体経済や金利環境が想定を超えて激変した場合も、ポートフォリオの前提自体が崩れるため「期中見直しの強力な大義名分になるだろう」と分析した。

(鬼原民幸、竹本能文、杉山健太郎、木原麗花 編集:久保信博)

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