John Kruzel
[ワシントン 4日 ロイター] - 米連邦最高裁のジョン・ロバーツ長官とドナルド・トランプ大統領は、人物像では対照的だ。しかし、最高裁がトランプ氏に有利な重要判決を相次いで下したことで、穏健な中西部出身の制度重視派であるロバーツ氏と、ニューヨークの不動産開発業者出身の大胆なトランプ氏との利害が重なる構図が浮き彫りになった。
トランプ氏が全般的に内政や外交政策での権限拡大を推し進め、多くの法的な異議申し立てを引き起こしてきた中で、最高裁は2期目のトランプ政権に極めて寛容な姿勢を示してきた。
一方で、ロバーツ氏とトランプ氏の違いもより鮮明になった。トランプ氏が輸入品に課した広範な関税措置、米国で生まれた子どもに自動的に米国籍を与える「出生地主義」の制限に向けた大統領令、米連邦準備理事会(FRB)のクック理事の解任を巡る三つの重要な訴訟では、双方の意見が対立し、トランプ氏は痛烈な敗北を喫した。これらの判決文はいずれもロバーツ氏が執筆した。
それらは異なる判事構成で審理されたものの、いずれも3人のリベラル派判事が判決を支持した。トランプ氏は敗訴により、大きな打撃を受けた。
カリフォルニア大バークレー校法科大学院のジョン・ユー教授は、これらの判決によって最高裁は単に「トランプ政権の一翼に過ぎない」という見方は払拭されるはずだと指摘。その上で「トランプ氏が2期目に最高裁で勝利を収めるのは、政策がロバーツ氏の方針と合致する場合に限られることを示している」と語った。
<右傾化>
ロバーツ氏は約20年間にわたって最高裁長官を務めており、その間に民主党から2人、共和党から2人の大統領が就任した。その期間の大部分で判事は保守派が5人と、リベラル派の4人を上回る多数派となっており、アンソニー・ケネディ元判事が「決定票」を投じる役割を果たしていた。
しかし、トランプ氏は1期目の2017年にニール・ゴーサッチ氏、18年にブレット・カバノー氏、20年にエイミー・コニー・バレット氏と保守派判事3人を相次いで任命したことで状況は激変した。
トランプ氏が保守派の圧倒的多数を形成したことで、最高裁は劇的に右傾化した。判例には、中絶の権利および人種を考慮する積極的差別是正措置(アファーマティブ・アクション)の後退、銃器所持権や信教の自由の拡大、規制当局の権限の制限などが含まれている。
今年4月にはマイノリティー(少数派)有権者の影響力を希薄化させるような選挙区割りを禁止した投票権法の中核規定を弱体化させる判決を出し、6月30日には政党とその候補者の間で協調した選挙資金支出に対する連邦法の制限を違憲と判断。ともに共和党に有利な判決を下した。
シラキュース大法科大学院のジェニー・ブリーン教授は、最高裁による投票権法の弱体化は「ロバーツ氏による数十年にわたるプロジェクト」であるとの認識を示す。保守派判事が主導し、サミュエル・アリート判事が判決文を執筆した6対3の判決により、少数派有権者が、1965年制定の歴史的な公民権法である投票権法に基づき、選挙区割りを人種差別的だとして争うことは難しくなった。
この判決によって共和党が主導する南部の州では、今年11月の議会中間選挙を控え、民主党を支持する黒人と中南米系住民が過半数を占める選挙区を解体する道が開かれた。黒人や中南米系の有権者には民主党候補を支持する傾向がある一方、共和党は中間選挙で議会の多数派を維持しようと必死だ。
<大統領の権限>
おそらくロバーツ氏が保守派の法律家やトランプ氏の支持者から最も称賛された判決は、連邦取引委員会(FTC)の民主党系委員レベッカ・スローター氏を解任したトランプ氏の判断を支持した6月29日の判決だ。ロバーツ氏が判決文を執筆し、判事9人のうち保守派6人が賛成、リベラル派3人が反対した判決は、独立規制機関のトップを大統領の恣意的な解任から保護する議会の権限を認めていた1935年の判例を覆した。
第一次トランプ政権中にホワイトハウス法律顧問局に勤務したジョージ・メイソン大法学部のロバート・ルーサー3世教授は「ロバーツ氏の最高の業績は、トランプ氏の敵対者たちによって行政府の限界が試された時に発揮されてきた」との見解を示す。
スローター氏解任を支持した判決は、「単一行政権」理論の到達点と見なされている。この保守的な法理論は80年代のレーガン大統領(共和党)時代に広まり、同調する判事の間に着実に浸透してきた。この理論は、大統領が政府の行政機関に対して唯一の権限を持っていると見なし、連邦機関のトップを意のままに解任・交代させる権限も含まれている。
アメリカン大ワシントン法科大学院のエリザベス・ベスケ教授は「単一行政権」理論の台頭は「数十年間にわたるロバーツ氏の構想の一環だ」とし、「ロバーツ氏はレーガン政権時代にホワイトハウス法律顧問局に在籍していた頃から、常に『単一行政権』の支持者だった」と振り返った。
ベスケ氏は「スローター氏の解任に対してはここ数年、学界からは多くの反対意見が寄せられてきた」としながらも、「だが、はるか前からこれを成し遂げようと決意しており、誰にも止められなかったのだと思う」と語った。
<経済政策>
一方、第二次トランプ政権中に敗訴した判決には、トランプ氏の経済政策に大きな打撃を与えた二つの判決があった。最高裁はロバーツ氏が判決文を書いた賛成6人、反対3人の判決で、国家緊急事態時に適用される法律に基づいてトランプ氏が進めていた広範な国からの輸入品に対する関税措置を違憲と判断した。
同じくロバーツ氏が判決文を書いた6月29日の判決ではトランプ氏がクックFRB理事を解任することを認めず、中央銀行の独立性を守る姿勢を堅持した。
シラキュース大のブリーン氏は「これら二つの判決は、市場や経済全般に混乱をもたらす恐れがあると最高裁が懸念する変化に対する警戒感を反映している」とし、「言い換えれば、これらの判決は最高裁の経済問題への保守的な志向と一致している」との見解を示した。
カリフォルニア大バークレー校のユー氏は、「出生地主義」の制限に向けた大統領令を違憲とした最高裁判決を引き合いに「トランプ氏が政治的な注目度を集めようとして特定の結論を求めようとしても、長年にわたりロバーツ氏が率いる最高裁が堅持してきた原則と衝突する場合には敗北を喫することになる」と評した。