Maria Martinez Kate Abnett
[ベルリン/ブリュッセル 2日 ロイター] - 6月に欧州を襲った記録的な熱波は、地球温暖化への「適応」が急務であることを改めて浮き彫りにした。欧州はこれまで比較的穏やかな気候に恵まれ、温暖化対策では排出削減の高い目標を掲げることに重点を置いてきた。
欧州連合(EU)は2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするという法的拘束力を持つ目標を設定した主要経済圏の一つだ。しかし、欧州の一部で気温が摂氏40度を超えた6月の熱波は、企業、公共施設、重要インフラが気候変動がすでにもたらしている影響に十分備えられていない実態を浮き彫りにした。
ポーランドのボレスタ気候副大臣はロイターに「適応は十分ではなかった」と述べた。域内では一部で電力供給が乱れ、屋外作業が禁止された地域もあった。ドイツでは列車が運休し、スウェーデンでは極端な高温で金属製レールがゆがみ、貨物列車が脱線した。被害が特に大きかった国の一つであるスペインは、記録的な暑さに関連する超過死亡が1000人に上ったと発表した。
適応策として建物や公共空間を整備する責任は、通常、EUではなく各国または地域当局の責任とされる。EUは、個々の国がそれぞれの具体的なニーズを最もよく理解しているとの立場だ。
年内にEU全域の「気候耐性計画」をまとめる欧州委員会のフクストラ委員(気候担当)は「ギリシャ人やスペイン人がどのように山火事と闘うべきか、EU本部から指示しても意味はない」と述べ、EUの計画では共通のシナリオや最善事例に焦点を当てることになると説明した。
それでも、EU自身の適応策への支出は依然として小規模にとどまっている。欧州は他のどの大陸よりも速いペースで温暖化が進んでいるにもかかわらず、だ。公式統計によると、21年から25年にかけてEUの共同予算から支出された気候関連資金のうち、排出抑制を目的とする「緩和策」が72%を占めた一方、「適応策」に充てられたのは18%、両方にまたがるものは9%にとどまった。
<緩和策に偏るインセンティブ>
EUとその加盟諸国は、再生可能エネルギー整備への補助金や、企業の排出量に上限を設け、余った排出枠を売買できる「排出量取引制度(ETS)」など、排出量削減のためのさまざまな経済的インセンティブを用意している。
ポーランドのボレスタ氏は、「排出量取引制度(ETS)があり、カーボンクレジットがあり、再生可能エネルギー企業もあるため、緩和策は事業上の合理性を示しやすい」と述べた。一方で「適応策は、長期的な便益をもたらすコストとみなされることがほとんどだ。便益の実現は先送りされ、場合によっては単なる保険のようなもの、つまり発動されるかもしれないし、されないかもしれないものとして扱われる」と指摘した。
オランダの金融大手INGは今週のリポートで、熱波、干ばつ、洪水といった気候変動に起因する異常気象が、低成長にあえぐ欧州経済の昨年の産出量を0.3%押し下げたと指摘。「不都合な真実は、熱波がいつの間にか気象現象からマクロ変数へと格上げされたことだ」とし、「温度計は経済の先行指標になった」と記した。
経済への影響は南欧諸国における観光や農業収入への脅威から、暑さに適応していないオフィスでの生産性低下まで、多岐にわたる。
公式推計によると、ドイツでは気温が30度を超える日が1日あると、生産性低下により4億3000万ユーロ(約748億6500万円)の損失が生じる。一方、ドイツ連邦環境庁によれば、同国のオフィスで空調設備を備えているのは約半数にとどまる。南欧では90ー95%に上る。
ドイツ経済研究所(DIW)のジェラルディン・ダニークネドリク氏は「ドイツは何十年もの間、寒さに備えて建物を造ってきたが、暑さには備えてこなかった。これが適応の遅れだ」と語った。
適応策の中には、単純で比較的費用が安いものもある。
ドイツの床材メーカー、プロジェクト・フロアーズは、ケルンにある歴史的なガラスドームの本社について、文化財保護法により構造変更ができなかったため、窓に反射フィルムを貼った。その結果、室内温度を10度下げることに成功した。同社のマネージング・ディレクター、ベルンド・グレーベ氏は「単純で効果的、電力も必要なかった」と述べた。
一方、より本質的な変革を要するケースもある。勤務シフトを涼しい時間帯に組み替えるといった職場環境や労働組織の見直しから、公共交通網や都市空間の再設計に至るまで、幅広い対応が求められる。
ただ、夏の間に欧州で約7万人の超過死亡が記録された2003年の熱波と比較すれば、適応面での進歩は認められる。
世界保健機関(WHO)は今週の声明で、現在の適応措置が講じられていなければ、欧州における熱波関連の死者数は約80%多かったとの試算を示した。現在の対策には、暑さから健康を守る行動計画、早期警報、涼める場所の確保、脆弱な人々への支援活動が含まれる。
WHO欧州地域事務局長のハンス・アンリ・P・クルーゲ氏は「これらの措置は今まさに命を救っている」と述べ、「欧州地域全体でさらに多くの取り組みが必要だ」と訴えた。