Balazs Koranyi Francesco Canepa
[シントラ(ポルトガル)1日 ロイター] - 欧州中央銀行(ECB)がポルトガルの保養地シントラで開いた世界の主要中央銀行当局者の会合では、人工知能(AI)が世界経済と金融の安定に及ぼす影響が主要な論点となった。AIが世界経済にどのような影響を及ぼし、金融安定の確保という中銀の使命にどう関わるのかという問題だ。
議論では、AIにはあらゆるものを揺さぶり、金融市場や労働市場、銀行融資、安全保障、さらには電力需要に至るまで、現時点では想像もできない問題を生み出す力があるとの見方で一致した。
主要なパネルディスカッションの一つで、アポロ・グローバル・マネジメントのトルステン・スロク氏は「AIの成果が期待を上回っても下回っても、金融の安定に影響を与える」と語った。
シンポジウムではAIが全体を貫くテーマとなり、移民や金融監督、気候問題に至るまで、あらゆる議論で取り上げられた。AIは生活のあらゆる面を改善し得る一方、時に違法な形で混乱をもたらす恐れもある。多くの発言者は、金融当局者にはそれを止める手段がほとんど、あるいは全くない点を懸念した。
米連邦準備理事会(FRB)のウォーシュ議長はAI革命について「これは各国・地域の経済にとって最も重大な局面だ」とした上で、「インターネットが誕生した当時、それがウーバーの運転手として150万人もの雇用を生み出すことになるとは誰が予想しただろうか。この革命はまだ序盤にある」との見方を示した。
<バブル膨張の加速も>
株式取引の場合、既に大部分の機能が自動化されている。しかしAIによる後押しがあればバブルが急速に膨らみ、その後崩壊する可能性がある。その過程で、現在では違法とされる一種の共謀的な市場操作により、上昇局面と下落局面の双方で利益を得ることもできる。
ペンシルベニア大のイタイ・ゴールドスタイン教授は「さらに高度で、より懸念されることは、これらのアルゴリズムが価格を操作する方向で協調する能力だ」と述べた。その上で「これらのアルゴリズムは実際にこうした価格操作を行い、バブルを生み出して暴落を招く。これは金融安定により重大な影響を及ぼす」と指摘した。
AIが既に生み出しているバブルの一つが、AI関連株のバブルだ。その一因は、AIの基盤構築に向けた巨額の資本支出で、アポロのスロク氏の推計では米国の国内総生産(GDP)を1%押し上げたとされる。
ここ数週間に評価額が下がったものの、専門家たちはAIブームによる急激な株価上昇を1840年代の英国の鉄道ブーム、狂騒の1920年代、あるいはITバブルといった歴史上最大級の資産価格崩壊につながった局面になぞらえている。
国際決済銀行(BIS)はレポートで「生産性の大幅な向上が期待される中、現在起きているAI投資ブームの規模とペースはこうした過去の事例と類似しており、短期的な下振れリスクの可能性を浮き彫りにしている」との見解を示した。
<AIの判断を監督できるか>
AIは銀行の融資業務に役立つ一方、複雑化させる面もある。銀行はより高度な信用分析が可能となり、従来の対象外だった借り手への資金提供も広がるとみられる。
しかしその監督は困難を極める。
国際通貨基金(IMF)幹部のトビアス・エイドリアン氏は「監督当局は、AIによる自律的な融資判断をどのように評価すればよいのか。それらはある意味でブラックボックスだ。説明可能性が欠けている可能性があり、監督上の重要な課題だ」と語った。
また、AIは企業や国の間で富の格差を広げる要因にもなり得る。悪意のある脅威に対する防御コストはさらに高くなり、本来なら存続可能な企業でさえ、自社の保護に苦慮しかねない。
エイドリアン氏は「極端な攻撃を考えると、多くは最も脆弱(ぜいじゃく)な部分を狙っている」と指摘した。
イングランド銀行(BOE、英中央銀行)のブリーデン副総裁は銀行破綻時の預金保険になぞらえ、何らかの保険制度の創設が解決策の一つになり得るとの見方を示し、「サイバー分野では、混乱時に、ある機関が別の機関の基本機能を引き継げる仕組みが必要なのではないか」と問いかけた。
しかし究極のリスクは、AIの過度な成功が世界経済の根幹を揺るがしかねないことだ。
AIが効率化への楽観的な期待の一部を実現すれば、機械が人間を大量に置き換え、大規模な失業を招く恐れがある。その結果、可処分所得が減少し、経済は景気後退に陥り、投資の根拠が損なわれることになる。
一方でAIの成果が期待を下回った場合、この分野への巨額の投資は期待されたようなリターンをもたらさないことになる。
カナダ銀行(中銀)のマックレム総裁は「インターネットは誰もが想像していた以上のものとなり、全く新しい事業を生み出したが、それでもITバブルは起きた」とし、「ただ、市場が期待先行で過熱し、その状態がしばらく続くことはあり得る」と指摘した。