Rajesh Kumar Singh Alessandro Parodi Joanna Plucinska
[シカゴ/ロンドン 22日 ロイター] - 米国とイランの暫定的な和平合意を受けて原油価格が下落し、航空業界はジェット燃料費で数十億ドルを節約できる見込みとなった。しかし、座席供給能力の逼迫を背景に、航空各社は運賃を戦争前の水準を大きく上回る状態で維持する可能性があり、乗客がすぐに燃料費低下の恩恵を受けることはなさそうだ。
そうした構図が最も鮮明なのは米国市場で、運賃の値上げは今年の燃料費高騰に依然として追いついておらず、国内線の座席数の伸びも限定的。そのため航空会社には最近の運賃引き上げを撤回せず、燃料費の低下を利益率の回復に充てる可能性がある。
17日時点の米国のジェット燃料スポット価格は1ガロン当たり2.85ドルと、4月上旬の高値4.88ドルから急落した。ロイターが業界の燃料消費量に基づいて算出したところでは、この水準が継続すれば、米国の航空業界の年間燃料費は400億ドル余り削減される。
<燃料費に追いつかない運賃上昇>
ジェット燃料価格の急騰に伴って、米国の航空会社は旅客運賃や手荷物手数料を引き上げ、運航スケジュールを削減したが、これらの措置で穴埋めできたのは燃料費上昇分の一部に過ぎない。
業界データによると、1月から5月にかけて、ジェット燃料価格は運賃の3倍を超える速さで上昇した。ドイツ銀行の推計では、米国各社が燃料費に費やした追加の1ドルにつき、増収で回収できるのは約0.60ドルにとどまり、241億ドルの燃料費増に対し、144億ドルの増収という計算だ。
アラスカ航空は上昇分の約3分の1を回収していると述べ、デルタ航空、ユナイテッド航空、アメリカン航空は、第2・四半期の回収率を約40%から50%としている。ジェットブルー航空とフロンティア・グループは、半分未満の回収となる見通しだ。
ユナイテッド航空のスコット・カービー最高経営責任者(CEO)はロイターに、価格設定を通じて燃料費の急騰分を回収しつつあると語った上で「年末までには100%回収できる道筋が見えている」と付け加えた。
レイモンド・ジェームスのデータに基づくと、8日時点の出発1週間前に予約された国内線の平均運賃は、前年同期比で34.1%上昇している。
重要なのは、燃料価格が落ち着く中で航空会社が最近の値上げを維持できるかどうか。メリウス・リサーチのアナリスト、コナー・カニンガム氏は、ガソリン価格の下落が、高い航空運賃に対する消費者の圧力を和らげる可能性があるとの見方を示した。
<地域で異なる価格転嫁>
米国以外では、運賃の下落があるとしても一様ではないだろう。ダブリンを拠点とするグッドボディの航空・旅行調査責任者を務めるダドリー・シャンリー氏は、原油価格の下落がジェット燃料価格に反映されるには時間がかかると指摘。ジェット燃料が年初の水準まで戻らない限り、航空会社は需要が許す限り運賃を据え置くか、さらに引き上げる公算が大きいとみている。
欧州では状況が分かれる可能性がある。RBCのアナリスト、ルアイリ・カリナン氏は、長距離路線では燃料費の上昇を運賃に転嫁することに成功しているため、運賃が下がりやすいと想定する。一方で、和平合意が予約や需要を後押しすれば、短距離路線の運賃は高止まりしてもおかしくない。
HSBCのアナリストの見立てでは、アジアは中国の3大航空会社が価格決定力の弱さと機体稼働率の低下に直面している。ただ香港のキャセイパシフィック航空は、運賃の上昇、貨物収入、プレミアム需要が燃料費を相殺できるため、より有利な立場にある。
中東については航空アナリストのジョン・ストリックランド氏は、一部の航空会社は旅客数を取り戻すためにプロモーションを行うかもしれないが、燃料費が依然として高過ぎるため、広範な割引が行われることはないだろうと述べた。またアラブ首長国連邦(UAE)の航空会社はより積極的に動き、政府からの強力な支援を受ける可能性があるとも付け加えた。
<収益回復を優先>
航空会社が燃料価格下落から受ける恩恵の大きさは、低価格がどの程度持続するかによる。燃料費はスポット価格ではなく一定期間の購入価格を反映しており、国際航空運送協会(IATA)によれば、直近の下落後もジェット燃料価格は依然として前年同期を54%上回っている。
<想定されない広範な運賃競争>
過去の米国の燃料サイクルでは、原油価格の下落はしばしば航空業界の座席供給能力の拡大競争を引き起こし、それが運賃を押し下げてきた。しかし、現在はそのような状況が広く整っているわけではない。
機体の納入遅延、空港容量の逼迫、格安航空会社(LCC)の弱体化を受け、国内での広範な運賃競争が起きる確率は限定的だ。業界データによると、第3・四半期の米国内線の座席数は前年同期比でわずか0.4%の増加にとどまる予定で、これは最近の中東情勢の緊張前に予想されていた4.6%から大幅に下方修正されている。
JPモルガンのアナリストは、機体納入の制限と格安航空会社の撤退が「大幅な供給過剰」のリスクを低減させており、航空会社が現在の価格水準を維持する能力は通常よりも高いとの見方を示した。