Kate Holton Elizabeth Pineau

[ロンドン/パリ 22日 ロイター] - 英国が欧州連合(EU)離脱、いわゆる「ブレグジット」を決めた衝撃的な国民投票を行ってから10年が経過し、英国とEUの間に渦巻いていた激しい反目や非難の多くは消えた。しかし、移民問題や政治的立場の違いをめぐる緊張はなお残っている。

さらに、世界情勢ははるかに不安定になっているにもかかわらず、英国、フランス、ドイツでポピュリスト政党や極右政党が台頭し、英国とEUが関係を再構築する余地は限られている。

英国は2020年12月31日午後11時、波乱に満ちた47年間の加盟に終止符を打ち、世界最大の貿易圏から離脱した。

それ以降、英国経済は打撃を受けたとの見方が広がる。首相交代が頻発し、政治の不安定化も目立った。個別の通商協定や、金融サービス、人工知能(AI)を巡る規制上の独立性など、ブレグジットの利益とされる点も、多くの人には実感されていない。

EU側のブレグジット交渉担当者のバルニエ元仏首相はロイターに対し、英国が抱える課題の全てがブレグジットに起因するものではないとしながらも「英国の困難は、ブレグジットによってより深刻になっている」と述べた。

一方、ブレグジット運動を主導した政治家や活動家は、離脱は成功だったと主張する。

ブレグジット支持団体「ボート・リーブ」のマシュー・エリオット代表は、米国の予測可能性が低下し、中国への対応がより困難になり、ロシアが欧州で戦争を続けるなど、世界情勢が一段と不安定になっている今こそ、独立の重要性が増していると述べた。

「急速に変化する世界では、独立性を保つことは有益だ。自国にとって適切な取引を行い、その時々に応じた正しい同盟関係を築くことができる」と同氏は語った。

<関係改善、成果は限定的>

英国とEUの関係改善に向けた取り組みは、22年にスナク前首相の下で始まり、24年にスターマー首相率いるより親EU色の強い労働党政権が誕生すると、取り組みは強化され、信頼回復につながった。

しかし、具体的な成果は限られている。

スターマー氏は昨年5月、英国とEUが合意に達した際、英国とEUの関係における「新時代」の到来を歓迎した。この合意により、英国の大規模な防衛産業は、欧州の再軍備に向けた1500億ユーロ(約27兆7000億円)の基金参加に向けて交渉できるようになった。

また英国は、食品・農産物、電力、排出量の取引を円滑にするため、EUの規則に沿うことに合意したほか、相互的な若者向けビザ制度の創設についても協議を進めていた。

ロンドンのシンクタンク、欧州改革センター(CER)の代表であるチャールズ・グラント氏は、進展は「遅く、苦痛を伴うものだった」と述べ、それは依然として存在する広範な不信感を反映していると指摘した。

また英国は、フランスの反対を受けて「欧州安全保障行動(SAFE)」への参加を見送った。この結果に英国のほか、ポーランドなどEU内の同盟国は強く反発した。

英国の防衛産業ロビー団体ADSグループのトップ、ケビン・クレイブン氏は「防衛と国家安全保障は、意見が対立することが極めてまれな分野だ」と述べ、「ウクライナを巡って一致し、ロシアの脅威についても一致しているのに、その脅威に対抗する手段で意見が分かれているのは、実に好ましくない状況だ」と語った。

<再加盟論、なお不透明>

ブレグジットから10年を迎え、英国とEUが最終的にどのような関係を築くのかに改めて注目が集まっている。EUの単一市場や関税同盟への参加を望むのか、将来的に完全な再加盟を目指すのかも焦点だ。

政治アナリストらは、EUとスイスの間に結ばれている複数の分野別協定が一つのモデルになり得ると指摘する。これらの協定はEU市場へのアクセスをある程度確保しつつ、英国への移民を政府が一定程度管理できる可能性を持つためだ。

CERのグラント氏によると、EUの当局者は現在この構想に否定的だが、地政学的な課題が増えれば、状況は今後変化する可能性があるという。

ただ同氏は、フランスのマリーヌ・ルペン氏率いる「国民連合(RN)」とドイツの「ドイツのための選択肢(AfD)」といった極右政党が政権に加わるような事態になれば、両党が独自の適用除外を求める可能性があり、EUはこれらの勢力によって身動きが取れなくなるだろうと述べた。一方、英国では長年のブレグジット推進派、右派政党「リフォームUK」のナイジェル・ファラージ党首が1年以上にわたって世論調査でトップを維持しており、EUと英国がより緊密な協定を結べば、それを破棄すると主張している。

<盤石ではないEU加盟支持>

世論調査によると、英国人の過半数はブレグジットを後悔しており、EUへの再加盟を望んでいる。しかし、今月実施された英調査会社YouGovの世論調査では、再加盟に伴う影響やコスト、特に移民問題やポンドの将来について尋ねると、支持率は下がることが明らかになった。

こうした世論の傾向は、スターマー氏の後継を狙う労働党の有力者、例えば有力な対抗馬であるアンディ・バーナム氏らが、英国とEUの関係についてより踏み込んだ公約を掲げることを制約する可能性がある。

前出のバルニエ氏は、ブレグジットは双方にとって「負け負け」だったと述べ、外交、防衛、通商を主導し得る有力な加盟国を失ったことを嘆いた。同氏は、双方が10年前ではなく現在の世界情勢を踏まえて関係を再構築する必要があると指摘。「一方にはトランプ氏、他方にはプーチン氏、そして中国がいるためだ」と述べた。

だが、英国の加盟期間を通じて存在していたのと同じ緊張関係は、今日でも存在している。親EU派の英国当局者でさえ、EUを柔軟性に欠ける法律偏重の官僚機構と見ている一方、EU側の当局者は、ファラージ氏がブリュッセルで20年間にわたり、EU政治家らを厳しく批判した過去を忘れていない。

労働党の有力議員は、政府は、閣僚にEU規則の実施や同規則に沿った対応を可能にする権限を与える法案の成立を目指しており、それが英国とEU双方をつなぎ留める助けになると述べた。

ただ同議員は、政府は7月の合同首脳会議を皮切りに、EUから何らかの「成果」を得る必要があると語った。「もはや時間を浪費する余裕はない。国民に対して成果として説明できるものが必要だ。それがあって初めて、次の段階に進む推進力と集中力が生まれる」と同議員は述べた。

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