Howard Schneider
[ワシントン 19日 ロイター] - 米連邦準備理事会(FRB)のウォーシュ議長は、就任後初めて出席した16-17日の連邦公開市場委員会(FOMC)で、早くも独自色を打ち出した。具体的には情報発信に後ろ向きだった1990年代の中央銀行への回帰で、特に世界金融危機以降、FRBが経済運営の主役を担わされ、議長が金融市場と実体経済双方に「安心感を与えるリーダー」として振る舞ってきた流れを転換させた。
そこで問われているのは、ウォーシュ氏自身およびFRBの役割縮小と、より複雑化した世界、激しさを増して二極化した情報環境、そしてFRBトップによる継続的な解説という「給餌」に慣れきった市場と両立し得るのかという点だ。
ウォーシュ氏が意図したかどうかは分からないが、17日の記者会見で同氏がインフレを強調し、利上げの条件となる基準についてそれ以上の微細な説明を控えたことは、投資家に「利上げは間近だ」と確信させ、債券利回りの上昇を招く結果となった。
ニューヨーク地区連銀元広報担当幹部で現在はエバーコアISIの副会長兼経済・中銀戦略責任者を務めるクリシュナ・グハ氏は、市場の反応が「ウォーシュ氏の会見によって大幅に増幅された。(二つの使命のうち)物価安定実現の必要性だけを強調するタカ派的姿勢と、FRBの戦略や反応関数(経済の変化に対する政策対応の仕組み)を調整するための議論の完全な欠如が組み合わさっていた。反応関数と戦略に関する議論はより効果的な中銀運営を支えるものであり、現在の中銀の実務の主要な指針だ」と解説した。
ウォーシュ体制下で初めて公表されたFOMC声明文は、自らの考えを公にすることを極端に嫌ったアラン・グリーンスパン元議長時代をほうふつとさせる、削ぎ落とされた内容だった。それでも今回示されたFOMCメンバーの政策金利見通し分布(ドットプロット)からは、ウォーシュ氏が語りたがらなかった事実を浮き彫りにした。それはすなわち、政策担当者たちが年内の利上げの必要性へと傾いていることだ。
<新たに浮上する疑問>
一方、簡素な声明文が必ずしも明快とは限らない。いくつかの変更点は、FRBの新時代について答えを出すどころか、同等の疑問を投げかける格好になった。
例えば、パウエル前議長時代に使われていた「インフレは高止まりしている」という単純な事実の記述に代わり、ウォーシュ氏による最初の声明は「FOMCの2%目標と比較して」高止まりしているという条件付きの表現になった。
この文言は、絶対的な意味ではインフレは過大だと見なされていない、という意味にも取れる。ウォーシュ氏は2%の目標を再確認しつつも「小数点以下の数値は重要ではない」とも述べており、目標近辺であればある程度のインフレを容認する姿勢を示唆している。
また、年初は低調だったが最近は強含んでいる雇用拡大の状況に関して、今回の声明文は「労働力人口の伸びと同等」という比較表現を用いた。この言葉は、トランプ政権下の移民取り締まりが、失業率を安定させるために必要な雇用数にどう影響したかという、パウエル時代のFRBが苦悩したいわゆる「奇妙なバランス」の問題を回避しているように見える。ウォーシュ氏はこの問題に深く踏み込まなかった。
声明文は経済成長全般の面では、将来にとって重要で現在は好調だとウォーシュ氏がみている側面(生産性と設備投資)が強調された。その半面、国内総生産(GDP)の他の構成要素については言及が避けられている。つまり個人消費とそれに関連した富裕層が恩恵を受ける「K字」型成長のリスク、純輸出とそれに関連した関税、政府支出と債務を巡る論点に触れられていない。
さらに物価安定と雇用最大化というFRBに課せられた2つの使命に対する相対的なリスク評価は完全に取り払われ、最後に「FOMCは物価の安定を実現する」という断定的な一文が添えられた。
KPMG USのチーフエコノミスト兼マネジングディレクター、ダイアン・スウォンク氏は「この声明文は新議長への贈り物だった」と述べ、インフレの強調を含むウォーシュ氏の優先事項が、この1年のFOMCで初めての全会一致での承認を得て文書に織り込まれた点を指摘した。
<新スタイルの持続性>
ウォーシュ氏の新しいスタイルが持続可能かどうかは、今後の市場の反応や、世界情勢がいかに推移するかに左右されるだろう。歴代のFRB議長はしばしば、危機の最中には確固たる「基本原則」が通用しなくなることを思い知らされてきたからだ。
同様にウォーシュ氏はFRB改革に向けた5つの委員会立ち上げを発表したが、JPモルガンのチーフエコノミスト、マイケル・フェローリ氏は、これらが「体制変革の推進役となるのか、それとも単に古い議論を蒸し返すだけの委員会に終わるのか」と問いかけた。情報発信の改革は昨年も議論されたが、バーナンキ元議長による高度な分析やパウエル氏の強い関心があったにもかかわらず、膠着状態で終わったという経緯がある。
10年以上にわたってFRBが厳しい批判にさらされてきた中で、ウォーシュ氏は「喝を入れる」と約束した以上、何らかの形で実行に移す必要があったとみられる。
バーナンキ氏の議長時代に理事を務めたウォーシュ氏は、2007年から09年の金融危機後も続くFRBの債券買い入れに反対し、11年に辞任した。そのウォーシュ氏が打ち出した5つの委員会のうち情報発信、バランスシート、インフレ枠組みの3つは深刻な不況、その後の低成長、そして米政府の政治的まひによってFRBが事実上経済政策の主役となったことで、劇的に変化した分野と言える。
新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)は、数兆ドル規模の経済支援策を通じてFRBの役割をさらに拡大させた。パウエル氏は、不安を抱える家計や神経質な市場を安心させるため、ゴールデンタイムのメディア出演を通じて説明責任を果たすまでになった。
これら全ての活動を縮小しようとするウォーシュ氏の試みは、単に過去の亡霊と戦っているだけではない。「生産性」と「政策決定におけるリアルタイムの代替データの活用」という残りの2つの委員会は、FRB内の多くの職員が取り組んでいる課題であり、調査研究部門の職員らもその探索を歓迎すると表明している。
アトランタ地区連銀ディレクターのポーラ・トカク氏は5月中旬のインタビューで「世界中には非常に多くのデータが溢れており、それを処理する能力も高まっている。そこから学べることは必ずあるはずだ」と語った。
新しい手法における課題は、以前からある指標とつなぎ合わせて理解するのが難しい点にある。それは新型コロナ渦の際に、一部の有望な新データセットが時間の経過とともに有用性を失った経験から研究者たちが学んだことだ。
トカク氏は「それがいかに長期的な既存の指標と適合するかを理解すること」が大切だとの見方を示した。