2. 米国の認知戦 失敗の系譜と基盤の欠落
ラ・ティルデを「AI時代の珍事」として語るのは誤りである。米国は、自国が中国やロシアを名指しで非難してきた手口――発信源を偽った擬似ニュースサイト、AIによる人物や画像の捏造、保健をめぐる偽情報――を、長年みずから運用してきた。ラ・ティルデはその系譜の最新版にすぎない。
代表的な失敗が「アンハード・ボイス(Unheard Voice)」である。スタンフォード・インターネット観測所(SIO)とグラフィカ(Graphika)が2022年に公表した報告書「親欧米の秘密影響工作の5年間を評価する」は、ツイッター(Twitter、現X)とメタ(Meta)が削除した米国系の秘密工作を分析した。
AIで作った架空の顔写真、独立メディアを装う偽アカウント、ハッシュタグ運動――手口は、ロシアなど権威主義国がこれまで用いてきたものと同型だった。
この作戦の効果はほとんどなかった。報告書によれば、フォロワーが1,000を超えた秘匿アカウントは全体のわずか19%にとどまり、大半の投稿はほとんど反応を得ていない。手の込んだ工作が、ツイッターとメタにあっさり凍結され、研究者の前にさらされた。
米軍がオンラインの心理戦に本格的に乗り出した時期(特殊作戦軍は2018年から専門の調整拠点を運用している)と、この5年に及ぶ工作は時期的に重なる。体制を整えつつあった時期の代表例が、この失敗である。
米国の認知戦には構造的な弱点がある。ロシアは、累計370万本を超える記事を自動配信するプラウダ・ネットワークのような常設の発信基盤を持っている。
中国は、エクアドルやベネズエラに国家規模の監視システムを輸出し、新華社やCGTNのコンテンツを現地メディアに無償で流し込む基盤を築いている。これに対し米国は、基盤を持たないまま、その都度、稚拙な工作を即興ではじめて暴露されている。
発信のインフラを欠く工作は一過性で終わり、情報環境を継続的に支配できない。米国の影響工作が請負業者への外注を常とすることも、質の不安定さに拍車をかけている。