栃木県上三川町の住宅で5月、親子3人が襲われて死傷する事件が起きた。実行役とみられる16歳の高校生4人が逮捕され、指示役と目される20代の夫婦も捕まった。高校生のうち3人は調べに対して「俺は知らない」「バールで殴っていない」とシラを切ったという。このふてぶてしさ。
1971年のスタンリー・キューブリック監督の映画『時計じかけのオレンジ』を思い出す。青年たちが冷酷な殺人、レイプを繰り返す話だ。「オレンジ」というのは人間の隠喩で、これが時計の歯車のように冷酷に動くことを意味している。要するにニヒリズム(虚無主義)である。
原作の小説が書かれた60年代と言えば、西欧では戦後の経済成長が終息し、大学を出ても行き場のない青年たちが暴れ出した時代だ。マルクス主義にかぶれて学生運動を起こす者、テロに走る者。愛とか自由とか民主主義とか、あらゆる美しい言葉に冷笑を浴びせ、人殺しを何とも思わない。これは古代ではローマ皇帝ネロなど為政者の特権だったが、近代に中産階級が成立し、かつ教育水準が向上すると、ニヒリズムの底辺は広がり、一見もっともらしいイデオロギーで自分を正当化するようになる。
ドストエフスキーの『罪と罰』のラスコーリニコフ、『カラマーゾフの兄弟』の次兄イワンなどがその典型だ。彼らは何らかのイデオロギーに入れ込み、それで殺人を正当化する。ロシアのニヒリズムの頂点はスターリン時代のソ連で、実に数百万人が「粛清」された。共産主義や愛国の美名で隣人を密告し、その一家を根絶やしにした後、アパートを乗っ取る行為も見られた。