Yusuke Ogawa

[東京 22日 ロイター] - 政府が外為法に基づき、工作機械大手・牧野フライス製作所の買収計画を中止するよう、アジア系投資ファンドのMBKパートナーズに勧告してから22日で1か月が過ぎた。

元国家安全保障局長の北村滋氏(現北村エコノミックセキュリティ代表)はロイターの取材に対し、「多くの日本企業は重要技術を持ちながら企業価値が過小評価されており、買収者にとって格好の標的だ」と警告した。

その上で、技術流出を防ぐために「民間主導の経済安保ファンドを創設してはどうか。海外勢に狙われる企業に対し、ホワイトナイト(友好的な買収者)として出資し、企業価値の向上を支援する存在が必要だ」との考えを示した。一問一答は次の通り。

――中止勧告の受け止めは。

MBKパートナーズだからというより、「牧野フライス製作所という重要企業が対象だったので中止勧告が出た」というのが正確な見方ではないか。MBKはこれまでも日本市場で数多くの投資を行っており、勧告後も別の案件で承認を得ている。同社固有の事情だけで説明できる案件ではないだろう。

牧野フは「5軸制御」という極めて高度な工作機械技術を有している。戦闘機のエンジンのブレード(羽根)や、潜水艦の静粛性に直結するスクリューの加工などに用いられており、安全保障のど真ん中にある企業だ。現状、中国は最新鋭の戦闘機用のブレードについて国産化が進んでおらず、ロシア製への依存が指摘されている。この技術が他国へ流出するリスクを、規制当局は回避しておきたかったはずだ。

――海外ファンドである点も審査に影響したのか。

本質的な問題は、買い手が「日系か、外資系か」という点ではない。たとえ日系や同盟国のファンドであっても、買収後のエグジット(出口)先が安保上の懸念国の企業になる可能性を完全には排除できない。MBKは中国を主要投資先の一つとしてきたことから、当局が将来の売却先などを管理できると判断しきれなかったことも、今回の勧告の一因とみられる。

現行の法的枠組みでは、承認後も継続的に経営状況を監視することには限界がある。

――投資ファンド業界からは、審査基準の詳しい説明を求める声もある。

そうした要望は理解できる。ガイドラインを用意するなどの考えもあるだろうが、詳細な判断基準を示しすぎれば、かえって反論を招きかねない。どうしても安全保障と密接に関わる外為法の審査には手の内を明かせない部分がある。

むしろ対話的なプロセスを丁寧に踏む方が望ましいのではないか。「承認する」か「拒否する」かという二元論ではなく、米国のCFIUS(対米外国投資委員会)のように、一定の条件を付けて承認し、その後も継続的にモニタリングするやり方は参考になる。

牧野フを巡る審査は約10カ月もかかったが、民間企業や投資家にとって、届け出後に長期間判断が示されないのは大きな負担となる。こうした運用を取り入れれば、期間の短縮にもつながるはずだ。

日本の外為法は、指定業種やコア業種が整理されており、海外に比べて基準が明確化されている面もある。この一件で対日投資全体への悪影響を過度に心配する必要はないだろう。円安の進行もあって、日本企業は依然として「お買い得」だ。MBKも日本での事業拡大の意欲があるからこそ、中止勧告を受け入れたのだろう。

今回は牧野フの保有技術の重要性が突出していたから起きたのであって、あくまでも例外的な案件と位置付けるべきだ。

――被買収リスクの高まりに、日本企業はどう対応すべきか。

多くの日本企業は重要技術を持ちながら企業価値が過小評価されており、買収者にとって格好の標的だ。近年、企業から「見慣れない株主が入ってきたがどうすべきか」という相談が増えており、株主の中には、実質的な資金の出し手を巧妙に隠している事例もある。

企業は、リスク情報を収集・分析する「チーフ・インテリジェンス・オフィサー(CIntO)」を設けるなどして、自前のインテリジェンス能力を備えるべきだろう。被買収だけでなく、サプライチェーン(供給網)の寸断やサイバー攻撃など経済安保における懸念は多方面に広がっている。すべての企業に対応を求めるのは難しいが、とはいえ最低限の危機管理意識は欠かせない。

また、民間主導の「経済安保ファンド」のような存在が必要だと考えている。中堅規模であっても重要技術を持ち、海外勢に狙われる企業には、ホワイトナイトとして出資し、企業価値の向上を支援していく。国が直接介入するのではなく、市場原理に沿いながら技術流出を防ぐ手立てが今まさに求められているのではないか。

(聞き手・小川悠介 編集:橋本浩)

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