イスラエルの首相に就任する3年前の1993年、ベンヤミン・ネタニヤフは著書『永続する平和──イスラエルとその国際社会における位置(Durable Peace: Israel and Its Place Among the Nations)』で自らのリーダーシップと中東の未来を決定づける世界観を示した。
本の中でネタニヤフは冷戦後の楽観的な和平プロセスを退け、強硬なドクトリンを提唱した。和解ではなく力に基づく「抑止力による平和」を訴え、「中東で持続し得る唯一の平和は防衛可能な平和」だと書いた。
そして実際「ビビ」の愛称で知られるネタニヤフは、このビジョンに沿ってイスラエルと中東地域をつくり替えてきた。
敵対するアラブ国家は無力化するか懐柔した。パレスチナ独立国家の樹立を目指したオスロ合意は、もはや遠い過去の記憶だ。さらにイランおよびその支援勢力「抵抗の枢軸」との戦闘で、イスラエルは圧倒的軍事力を見せつけた。
2023年10月7日に起きたパレスチナのイスラム組織ハマスによる奇襲攻撃を防げなかったことへの批判をはじめ、ネタニヤフは無数の論争の矢面に立たされている。それでも彼は災厄を好機に変え、首相としての通算任期は今や歴代最長だ。
「歴史に残る指導者と歴史をつくる指導者がいる」と、元駐米イスラエル大使で権利擁護団体イスラエル・アドボカシー・グループを設立したマイケル・オレンは言う。「ネタニヤフは後者だ」
ネタニヤフは第2次大戦下のイギリスを率いた宰相ウィンストン・チャーチルの写真を机に飾り、その言葉をよく引用する。オレンによれば、ネタニヤフはチャーチルと同じく「自分が特別な役割を果たすために生まれてきたと考えている」という。「まさに今のこの瞬間のために、ネタニヤフは生まれてきたのだ」