冤罪で長期間勾留中に亡くなった人もいる
それは喜ばしいことだが、裏を返せば「真実であっても、ホームランが打てなければ無理」ということになってしまう。無実の人の人生を、そこまで弄ぶ権利が誰にあるというのだろうか。
犯罪の嫌疑をかけられて取調べの場に引き出されることは、プロボクサーを相手にアマチュアがいきなりリングで戦わされるようなものです。リング(密室の取調室)には、セコンド(弁護士)もレフェリー(裁判官)もいません。プロの取調官は、圧倒的な力でアマチュア(被疑者)に迫り、自白を取るまで戦いを終わらせません。(86ページより)
この戦いにおける取調官の最大の武器は「人質司法」だ。被疑者・被告人が容疑を否認したり黙秘したりすると、長期間にわたって身柄を拘束するのである。ストーリーに沿った自白調書にサインするまで勾留が続くため、レフェリーやセコンドのいる試合(裁判)に移る前に、多くの人が降参してしまう。
もし降参せずに否認や黙秘を貫けば、仕事や社会的地位を失うことも充分に考えられる。そればかりか、勾留中に命を落としてしまう人もいる。
例えば、噴霧乾燥器メーカーの代表者らが2020年に逮捕・勾留され、約11カ月間身柄を拘束された冤罪事件である大河原化工機事件においては、元顧問が勾留中に胃がんが見つかって起訴取り消し前に亡くなっている。
そもそも、被疑者や被告人の人権を踏みにじる「人質司法」がいまだ続いていること事態が異常だ。
村木氏の郵便不正事件から17年を経て「検察や検事のすることは本当に正しいのか?」と疑問を抱く人の数も、少しずつ、だが確実に増えている。だからこそ、そうした流れに乗って、私たちもこれまで以上にこの問題を“自分には無関係”ではないこととして考えていく必要がある。
[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。他に、ライフハッカー[日本版]、東洋経済オンライン、サライ.jpなどで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」などにも寄稿。『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)、『この世界の中心は、中央線なのかもしれない。』( 辰巳出版)など著作多数。2020年6月、日本一ネットにより「書評執筆本数日本一」に認定された。
