Deepa Seetharaman
[オークランド(米カリフォルニア州) 19日 ロイター] - 米人工知能(AI)開発企業オープンAIのサム・アルトマン最高経営責任者(CEO)は18日、カリフォルニア州オークランドの連邦地裁で米実業家イーロン・マスク氏との訴訟に勝利した。ただ、その勝利は、かつての同僚たちが宣誓に基づく証言でアルトマン氏をうそつきだと繰り返し呼ぶのを聞かされるという代償を伴った。
オープンAIの共同創業者だったマスク氏は非営利団体が不当に営利企業に転換させられたと訴えたが、連邦地裁の陪審員団はマスク氏の主張を退けた。陪審員団はマスク氏の訴えを退け、同氏が提訴までに時間をかけぎたと判断した。上訴するのは困難になる可能性がある。
今回の評決により、オープンAIの新規株式公開(IPO)への道筋は開けた。
この訴訟はオープンAIが約1500億ドル(約23兆7435億円)の支払いと経営陣の追放を強いられるリスクがあった。それでも、今回の裁判で描かれたアルトマン氏の人物像は、1兆ドル規模となる可能性があるIPOに対して資金を求められる投資家たちの信頼を揺るがす可能性がある。
生成人工知能(AI)「チャットGPT」の生みの親として知られるアルトマン氏は、かつての同僚やその他の証人たちから信頼できない指導者だとする証言を数日間にわたって聞かされた。マスク氏の弁護士はアルトマン氏に反対尋問した際、マスク氏を含む8人の証人の証言を引用し、アルトマン氏が他の人たちをだましたか、あるいはうそをついたと述べた。
アルトマン氏は自らを弁護し、自分が誠実で信頼できる企業家だと信じていると証言した。
<問われた誠実性>
オープンAIの主任弁護士は裁判中、報道陣に対して、マスク氏の弁護団が自らの主張を裏付ける証拠を示すよりもむしろアルトマン氏に対する「人格攻撃」に訴えていると語った。
オープンAIの幹部であるジョシュア・アキアム氏はアルトマン氏について「アルトマン氏と直接関わった私の全ての経験で、彼は私に対して誠実だったと思う」と証言した。
マスク氏は、オープンAIの経営陣がオープンAIを人類の利益のために働く非営利団体として維持するという合意を破ったと主張した。
マスク氏は、アルトマン氏をうそつきと呼んだ数人の元同僚や関係者の一人であり、誠実性というテーマがマスク氏の訴訟の根幹だった。
オープンAIはマスク氏をオープンAIの支配権を欲していた人物として描写した。
マスク氏の弁護士のスティーブン・モロ氏は最終弁論で、「この訴訟ではアルトマン氏が信頼できるかが直接問われている」と指摘。陪審員団は2時間足らずで評決に達し、マスク氏が訴訟を起こした時期に焦点を絞った。
<指導力に対する疑問>
アルトマン氏の指導力への批判は今に始まったことではない。
オープンAIの取締役会は2023年、アルトマン氏の指導力を疑問視して解任した。しかし、社員の大部分が退職を示唆したため、わずか1週間足らずでアルトマン氏を復帰させた。オープンAIの弁護団は今回の裁判中、圧倒的多数の従業員がアルトマン氏の復帰を支持する書面に署名したと指摘した。
ただ、公判で提出された証拠の多くはアルトマン氏にとって不名誉なものだった。
その中にはアルトマン氏が個人的にオープンAIと取引関係にある企業に数十億ドル規模で投資していたことを示す膨大な書類が含まれており、利益相反に当たるのではないかという疑問を招いた。
アルトマン氏は一般論として利益相反が生じそうな場合は関与しないようにしており、事業活動で他者をだましたと考えていないと証言した。
<内部メモの公開>
裁判の証拠の一部として公開されたメモによると、22年9月の時点でオープンAIの最高技術責任者(CTO)だったミラ・ムラティ氏はアルトマン氏の指導スタイルに関する複数の問題を詳細に記していた。「事業、人員、目標などを巡る絶え間ないパニック状態が、混乱と人員の入れ替わりをもたらしている」
ムラティ氏は証言の際、23年秋の時点でアルトマン氏が誠実な人物だと思っていたかと問われると非常に長く沈黙した。そして「いつも誠実だったわけではない」と答えた。さらに、アルトマン氏がムラティ氏の仕事を妨害し、オープンAIの他の経営幹部同士を対立させて反目し合うように仕向けていたと付け加えた。
オープンAIの共同創業者であり元取締役のイリヤ・サツキバー氏はアルトマン氏の指導力の欠陥の事例を1年以上にわたって記録していたと証言した。
ウェドブッシュ証券のアナリストのダン・アイブス氏はオープンAIは最悪の結果を回避したと指摘。今回の評決を「アルトマン氏の人物像とリーダーシップに傷はついたものの」、同氏とオープンAIにとっての「大きな勝利」と評した。