ビジネスの世界ではしばしば自然も数値に還元される。二酸化炭素(CO2)排出削減目標や生物多様性データといった具合だが、測定可能な数値に過度に依存すると重要なものを見落とす危険がある。
この問題を回避する最も効果的なアプローチが、リーダーシップ研修に自然体験を取り入れること。従来型のリーダーシップ研修ではこの点が見落とされがちだが、生態系や土壌や水は抽象的な素材ではなく、観察し、学ぶべき生きたシステムになる。
MBA(経営学修士号)課程の学生を対象とした筆者の研究では、屋外での学びはリーダーシップやサステナビリティを再考する一助となり、人材育成に役立つことが示されている。
筆者と学生は英バース大学のゼミ室を飛び出して、近くの森林へと足を運んできた。最初は戸惑う学生もいたが、周囲に意識を向けるうちに会話の内容が変わっていった。
「数年ぶりに頭がすっきりした」と語る学生もいれば、「アハ体験(脳の神経細胞が活発化し、ひらめくこと)をした」と語る学生たちもいた。経済活動の持続可能性は自然との相互関係にあることを理論ではなく、実体験として理解したのである。
リーダーの意思決定は感情や価値観に影響を受ける
こうした体験は、自然との「浅い」結び付きから「深い」結び付きへの転換を示している。筆者が研究で論じてきたように、結び付きが浅い場合、自然は報告書や戦略のための枠組みでしかない。自然との深い結び付きは、直接的な体験を通じ、自分を生きたシステムの一部として感じたときに生まれるものだ。
東京大学の曽我昌史准教授らが2024年に発表した論文によれば、自然との直接的な関わりは生涯にわたって環境保護に取り組む姿勢を育む重要な役割を担う。
このことはビジネス界にとって重要な示唆に富む。リーダーの意思決定は必ずしも分析的ではなく、感情や価値観に影響を受けるからだ。自然の中で畏敬の念を覚える体験はストレスを軽減し、共感力を高めるという研究もある。
ビジネスリーダーにとって謙虚さと共感力は、副次的なスキルではない。危機を乗り越え、信頼を築き、効果的な意思決定を行うために不可欠なものだ。だからこそ自然を活用した研修を行う企業が増加している。
ビボベアフェットの「リジェネラティブ」思考
アウトドアウエア大手パタゴニアの創業者イボン・シュイナードは、屋外で過ごす時間こそ同社の価値観の基盤になっていると長年語ってきた。フットウエアブランドのビボベアフットは、人里離れた海岸や森林での研修を通じて、生態系を以前の健全な状態に再生する「リジェネラティブ」思考を導いている。
こうした取り組みは先進的な実験にとどまらない。ビジネスカルチャーそのものに変化が起きていることを示すものだ。もちろん自然体験型研修がグリーンウォッシュになる懸念はあるし、従業員を屋外に連れ出すだけでは、サステナビリティへの真摯な関与は生まれない。
それでも屋外で得た経験を分析した研究では、その後の業務の遂行に影響する「学習転移」が確認されている。
自然とのつながりを育むことは地球のためにも、自身のためにも、将来のビジネスリーダーが下し得る最も戦略的な決断の1つかもしれない。
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George Ferns, Senior Lecturer in Business and Society, University of Bath
This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.
Reference
Ferns, G. (2025). For what it’s earth: Transcending the human-nature dualism through ‘deep nature connection’. Business & Society, 64(5), 851-855. https://doi.org/10.1177/00076503241271312
Soga, M., & Gaston, K. J. (2024). Do People Who Experience More Nature Act More to Protect It? A Meta-Analysis. Biological Conservation, 289, Article 110417. https://doi.org/10.1016/j.biocon.2023.110417
POINT(本誌サステナビリティ室長 森田優介)
企業でのサステナビリティ実践が広がってきましたが、そこには、環境の「現場」を知らない担当者やリーダーが増える危険性が潜んでいます。自然体験という一見シンプルなこの研修は、大変興味深い試みではないでしょうか。