本当に認知症なら、車の運転そのものが困難
とはいえ、高齢者専門の精神科医として多くの実績を持つ和田氏からすれば、それは「とんでもない誤解」であるようだ。ブレーキとアクセルの区別がつかなくなるような症状が出るとすれば、それはかなり進んだ認知症を患っているケースのみだというのだ。
私自身、これまで多くの認知症の患者さんを診てきましたが、いわゆる「ぼけ症状」(知能低下やもの忘れ)が強く出ている人でも、箸を使って食事をする、洗濯機や炊飯器、掃除機などの家電を操作する、そして車を運転するといった「手続き的記憶(身体が覚えている動作)は、ほとんどの場合しっかり保たれています。
もっと重症になれば、ブレーキとアクセルの区別がつかなくなることもあり得ないわけではないのですが、その場合は車を運転すること自体が困難です。そもそもエンジンさえかけられない可能性が高いので、事故を起こす直前までは普通に運転していた、というのはどう考えても不自然なのです。(22〜23ページより)
つまり、ブレーキとアクセルの踏み違いによる暴走事故が「認知症のせいで起きる」というのは、正しい知識を欠いた憶測なのだ。誤解ばかりが広まった結果、「認知症の高齢者が暴走事故を起こす」という間違った見解が、あたかも本当の話であるかのように広まっていったということである。
なるほど、認知症についての誤解は少なくないかもしれない。例えば「認知症になると、いきなり何も分からなくなる」といったイメージが強いが、認知症の多くは段階的に少しずつ進行するという。
また、初期症状の大半は記憶障害なのだそうだ。「記銘力」という、直近の出来事を記憶する力が徐々に低下する症状である。きのう聞いたはずの話を忘れる、同じ話を何度もする、ついさっき何かを置いた場所を忘れるというようなことが起こるようになっていくわけだ。