Kentaro Okasaka

[東京 15日 ロイター] - 世界が注目した米中首脳会談は目立った対立がなかった半面、大きな成果も乏しいまま幕を閉じた。国際政治が専門で、「米中対立 アメリカの戦略転換と分断される世界」の著書がある佐橋亮・東京大学教授はロイターとのインタビューで、中間選挙を控え経済的成果を急ぐトランプ大統領と、米中関係の安定に注力した習近平国家主席の落ち着きぶりが際立ったと印象を語った。日本は良好な米中関係と急速な悪化の双方にダブルヘッジして備える必要があると語った。

―今回の米中会談の印象は。

トランプ氏は欲しいものを取り、お土産をもらって帰った。習氏は非常に大きな視点から米中関係の安定化・維持に注力した。 お互いが全く違う時間軸で物事を考え、全く違うものを欲しがったということだ。米側の発表で一番上に書かれているのがマーケットアクセスと中国からの対米投資。米側は今回、経済的果実を取りに行った。そしてイラン問題。それが彼らの優先順位をそのまま表現している。中国は今回、何か大きな成果を狙いにいったわけではなく、3年後まで(トランプ政権は)あるわけだから、その間、建設的な戦略的安定を維持し、いつか回収できればいいと思っている。習氏の方が落ち着いて、でんと構え、中間選挙を控えるトランプ氏の方が先に成果を求め、貪欲さを出していた。

―台湾問題は記載がなかった。ルビオ国務長官は米メディアに台湾問題が取り上げられたものの「台湾を巡る米国の政策は現時点でも変わっていな​い」と語った。

1971年にキッシンジャー元米国務長官が訪中した際、台湾問題についての話なんかしていないと言い続けたが、それはうそだった。米中関係の70年を研究している立場からすると、表に出る台湾問題の話などは本当に話している内容と違う。今回、米国からすれば台湾問題で何かを公表するようなことは言えるわけがない。信頼性に関わるからだ。日本も含めた同盟構造が壊れてしまう。一方、中国側も同じで、「中東」としか公表していなくてもホルムズ海峡の話は突っ込んでしているはずだ。公表しないのは、同様に彼らの信頼性に関わるからだ。

―懸念は。

2人で話す中で認識を少しずつ接近させているのは間違いなく、トランプ氏の発言でもそこは強調しているし、習氏とはウマが合うというような雰囲気だった。その認識の共有が怖いわけだ。台湾問題について習氏からの「この問題を大事に思っていて、平和的に統一しようと思っている」というような話にトランプ氏もだんだん乗せられてしまうのが怖い。年内に会談の機会がまだある。

―トランプ氏は訪中前、台湾への武器売却問題が出るだろうと話していた。

台湾問題で何が話し合われたのかは(対外発表で)書けるはずがないので今後、米側の台湾への武器売却が計画通りきちんと進むかどうかで判断していくしかない。

―イラン情勢で中国がより積極的に動く約束をするかどうかも関心事だった。

それも同じロジックだ。結局、書かれていないから出てくるもので見るしかない。それはアクションもイナクション(行動しないこと)もあり得る。普通に考えたら、中国はイランにミサイルや原材料を売る。 米側はそれはしてほしくないわけだから、中国の「不行動」を見ていく必要がある。加えて、表か裏かは分からないが、中国が仲介的な役割をするかどうか。ただ、中国外交の足元が崩れるので、基本的には米側に立ったと見られては絶対にいけない。外交的メンツを壊さず、米側に寄らない形での仲介努力をやる可能性はあるし、それは今後見ていけば分かるだろう。

―日本にとっての懸念事項は。

米中関係の良好な状態が続くということははっきりした。米中関係が良ければ、われわれは3年間不安を感じながら生きることになるだろう。今回表に出ている成果の中で唯一気になるのは、経済安保の構えが崩れないかという点だ。半導体大手エヌビディアの人工知能(AI)向け半導体「H200」を本当に売るのか。通商委員会、投資委員会の設立についても協議しており、関係がさらに制度化されていく可能性も十分にある。台湾に関しては今回はなくても、今後いつ何があるか分からないし、中国はそれをずっと狙ってくる。

日本が米中関係に及ぼせる影響はほぼなく、米中が良好でも対立しても良いようにダブルヘッジをするしかない。今はデタント(雪解け)の入り口ぐらいには立っているが、急Uターンして一気に対立に戻ることはあり得る。米国と旧ソ連の関係でもデタント後に冷戦が再燃している。

(聞き手・岡坂健太郎 編集:久保信博)

Reuters Copyright (C) 2026 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。