最寄りの福祉事務所を選び、電話をかけ、その後関連の書類(彼の場合は運転免許証とマイナンバーと銀行通帳)を持って行って生活保護を申請した。2週間後、彼の申請は承認され、入居する施設も決まった。

ちなみに、申請者に家がない場合、申請承認を待つ必要はなく、すぐに施設に入居できるよう手配されるという。これを緊急避難と呼ぶ。

その日の午前10時、我々は福祉事務所に到着した。

そこのケースワーカーは宇海くんに、午後に施設の人が迎えに来ると伝えた。そのとき私は少し心配していた。もし車で迎えに来るなら、私はおそらく同行できなくなるだろうと思っていた。

2時間ほど施設の人を待つ必要があるので、まず外で昼食を済ませ、近くの公園の椅子に座って、昨日からずっと宇海くんに聞きたかった質問をすることにした。

「突然ホームレス生活から抜け出して、生活保護を申請する理由は何ですか?」

「ホームレスの生活に飽きました」

宇海くんの答えは簡潔で率直だった。

「野外生活がしんどい、環境が孤独すぎるからなのか? それともいじめられたのか?」

実は、つい最近、宇海くんのテントが若者数人に石で攻撃されたという話を彼の師匠から聞いた。

「それがホームレス生活から抜け出す理由ではありません。ただこういう退屈な生活に飽きてしまい、新しい生き方を試したかったのです」

『河川敷の『原住民』――令和ホームレスの実像』

 『河川敷の『原住民』――令和ホームレスの実像

  趙海成・著
  扶桑社新書

 

 (※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

 

[筆者]
趙 海成(チャオ・ハイチェン)
1982年に北京対外貿易学院(現在の対外経済貿易大学)日本語学科を卒業。1985年に来日し、日本大学芸術学部でテレビ理論を専攻。1988年には日本初の在日中国人向け中国語新聞「留学生新聞」の創刊に携わり、初代編集長を10年間務めた。現在はフリーのライター/カメラマンとして活躍している。著書に『在日中国人33人の それでも私たちが日本を好きな理由』(CEメディアハウス)、『私たちはこうしてゼロから挑戦した──在日中国人14人の成功物語』(アルファベータブックス)、ニューズウィーク日本版ウェブサイト(2024~2025年)に連載『荒川河畔の原住民』などがある。

【関連記事】
ニューズウィーク日本版 世界宗教入門
2026年5月19日号(5月12日発売)は「中東新秩序の勝者」特集。

剛腕首相ネタニヤフが図ったアラブとイランの弱体化で、中東に訪れる新時代

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら
※画像をクリックするとアマゾンに飛びます