2025年、レバノンは内戦勃発から50年を迎えた。政治不安や経済危機、20年のベイルート港爆発事故を経て、今なお社会の混迷は続いている。この「美しくも壊れた国」で生きる若い女性は、ある問いを抱えている。「私はどこへ向かうべきなのか」と。

内戦中、20歳の時に母国を離れた写真家のラニア・マタルは、「とどまるか、去るか」のはざまで揺れる今のレバノンの女性に自らの過去を重ね、撮影を続けてきた。その記録の成果が新作写真集『私はどこへ?(Where Do I Go?)』(カフ・ブックス刊)だ。

被写体の女性は、単にレンズを向けられる存在ではない。マタルが「協働」と呼ぶ制作プロセスにおいて、自ら撮影場所を選び、見せ方を決めた。閉鎖された劇場や廃墟、弾痕が残る壁などは、彼女の内面を投影している。

現在、イラン情勢の悪化でレバノンは再び戦火の渦中にある。女性のまなざしには、激動の中にあっても失われない創造性や尊厳、希望が宿っている。

新作写真集 『私はどこへ?(Where Do I Go?)』 カフ・ブックス刊

撮影:ラニア・マタル レバノンで生まれ育ち、1984年にアメリカへ移住。思春期の少女や女性の肖像写真を通して個人的、集団的アイデンティティーを探究する。本作は新作写真集『私はどこへ?(Where Do I Go?)』(カフ・ブックス刊)に収録。同名の写真展が米インディアナ大学シドニー・アンド・ロイス・エスケナジ美術館で開催中(8月2日まで)

【連載第1024回】Newsweek日本版 写真で世界を伝える「Picture Power」
  2026年4月21日号掲載

Photographs from “Where Do I Go?” by Rania Matar, published by Kaph Books

【関連記事】
ニューズウィーク日本版 世界宗教入門
2026年5月19日号(5月12日発売)は「中東新秩序の勝者」特集。

剛腕首相ネタニヤフが図ったアラブとイランの弱体化で、中東に訪れる新時代

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら
※画像をクリックするとアマゾンに飛びます