この疑問について、計量調査によって日本人の政治意識、対外国人意識を研究している早稲田大学文学学術院の田辺俊介教授に話を聞いた。

田辺が2009 年から継続的に実施している調査でも、確かに年齢が上がるほど、愛国主義が強まる結果が出ている。また別の調査では、アジアよりも欧米を上と見なす「西高東低」の価値観も年齢が上がるほど強まるとの結果が出た。その意味でギルバートの本の読者層とは一致する。ただし、いわゆる「反中嫌韓」のムーブメントが始まった当初から高齢者がその担い手だったわけではないという。

嫌韓感情について田辺が分析したところ、2009年の調査では年齢が若く反権威主義的であることが特に強い嫌韓感情と関連していたが、2013年の調査では反権威主義・低年齢との相関は消えてしまったという。若者から高齢者へ、嫌韓の担い手が変わったという可能性を示唆する結果だ。

初期の嫌韓ムーブメントを牽引した漫画家、山野車輪も同様の見解を示している。

「黎明期の嫌韓は、『マスコミが報じない本当の韓国を知ろうよ』という純粋な啓蒙活動。今の嫌韓は、韓国批判がタブーだった時代が終わり、タブーとされていたこと自体が半ば忘れられている中で、保守勢力や愛国精神と密接に繋がっている」(日刊SPA!)

若者を主体に始まった反権威的ムーブメントが、気付けば高齢者を中心とした保守的な潮流にのみ込まれたという転換であり、『儒教』のベストセラーはその追い風に乗ったと言えるのかもしれない。

ただし、ギルバートの著作はある特定の社会グループに支えられてベストセラーとなったとはいえ、欧米のような社会的分断と日本では状況が異なると田辺は指摘する。

「欧州では実際に移民が国内に入ってきて、『俺たちの職が脅かされる』という生活面の不安が排外主義の発端となった。一方で日本は『治安不安』、現実には治安は悪化していないが、外国人が増えると犯罪が増えるのではないかという不安から始まり、歴史教科書や従軍慰安婦、尖閣、竹島といった国家間の問題によって拡大したという異なる経緯をたどっている」

日本では生活と懸け離れた曖昧な不安でしかなく、欧米ほど社会的分断は激化していないとの見立てだ。しかし、技能実習生の範囲拡大など、受け入れ対策が不十分なまま実質的な移民拡大が進むなか、今後は「職をめぐる競合」という認知にも発展しかねないと田辺は警鐘を鳴らす。

『儒教』の大ヒットに関しては、書き手の思想や出版社の姿勢が問われてきたが、社会問題の側面もあるのではないか。ベストセラー本の背後に日本社会に走る亀裂が見え隠れしている。

(筆者は1976年生まれ。著書に『現代中国経営者列伝』『なぜ、習近平は激怒したのか』。執筆協力:伊藤亜聖・東京大学社会科学研究所准教授)

【参考記事】出版業界を席巻するケント・ギルバート現象の謎

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ほかに、立地ごとの売れ行きでも顕著な違いが見られた。DB WATCHは加盟店の立地を都心、駅前、郊外ロードサイド(幹線道路沿い)、地方ロードサイドの4つに分類している。『儒教』と『未来』を比較すると、駅前、郊外ロードサイド、地方ロードサイドではほぼ同様の傾向が見られるが、都心では『未来』が『儒教』の2.5倍以上もの売れ行きを記録している。