ロシア語会議通訳者、エッセイスト、作家として国境と言語のあいだを往復したキャリア以上に、読者が受け取っているのは「思考の姿勢」にある。リズムのある文章と、鋭さと温かさを併せ持つ批評。そのバランス感覚が、複雑な現実を生きる世代にとっての参照点になっている。

加えて、この世代の女性たちの母親には専業主婦が多かったという背景もあるのではないか。だからこそ職業人として自立し、国境を越えて仕事をする米原万里の姿は、「働く女性」を具体的にイメージさせるロールモデルとして受け止められたのだろう。

松永氏の1冊は、その米原万里の原点を父・米原昶へと遡らせる。政治とメディア、それぞれの現場で言葉を武器にしなやかに闘った父と娘。

その接続点が見えたとき、ファンが親しく「万里さん」と呼んでいる背景も輪郭を帯びてくる。米原万里の熱烈なファンは、どこかで「米原家」と自分の家族の物語を重ね合わせて読んでいるのだろう。

米原万里の根強い人気は、読者が自らの生き方を確認するために読み直している結果であり、単なるノスタルジーではない。没後20年の今年、米原万里は今も確かに現代女性たちの中に生き続けている。

「米原万里まつり」概要

◆東京堂書店 5月15日(金)18時半~   

 

松永智子×井上ユリによるトーク&サイン会 
「この父ありての、米原万里」(要予約) 
 『米原昶の革命――不実な政治か貞淑なメディアか』でサントリー学芸賞を受賞した気鋭の学者松永と、昶の次女で『姉・米原万里』の著者井上による対談とサイン会  

◆PASSAGE by ALL REVIEWS  5月15日(金)~31日(日) 


「米原万里書店」をオープン

井上ユリ選<万里の愛した本>の展示

米原万里のほぼ全作品、文庫・新書版の販売 
PASSAGE bis!(3階カフェ)で万里の写真・愛用品展示 

 

・5月23日14時 米原万里作品の読書会(スイーツとお茶付)  
・5月30日18時 鹿島茂(フランス文学者)と沼野恭子(ロシア文学者)によるトークイベント(読書会とトークイベントは要予約)  

 

「米原万里食堂」開店 /PASSAGE bis!にて、井上ユリが調理  

 

・5月16、17日 万里定食──ボルシチと黒パン(予約可能限定20食)  
・5月23、24日 万里が愛したスイーツとお茶のTea Time   


問合せ:PASSAGE

◆CHEKCCORI(チェッコリ) 5月23日(土) 18時~   


没後20年を偲ぶ~韓国語翻訳を手掛けた李賢進トークイベント 
「なぜ、米原万里作品は韓国で愛されたのか」(要予約)  


問合せ:CHEKCCORI(チェッコリ) 

 ◆今こそ読みたい「米原万里」特設サイト

 

 「試し読み」「思い出エッセイ」「米原万里ブックリスト」など

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