2020年のブレグジット(イギリスのEU離脱)の目的は、イギリスと欧州の関係を変えることだった。実際、見えにくいが重要な変化の1つが金融市場で起きており、年金基金や借り入れコストにまで影響を及ぼしている。

ブレグジットの是非を問う16年の国民投票の前は、ロンドン株式市場がくしゃみをすれば欧州が風邪をひくと言われた。だが筆者らの研究によれば、金融におけるイギリスとEUの関係は、影響を与える側と受ける側が逆転した。

ロンドン市場の影響力がブレグジット後も維持されているかを確かめるため、私たちは欧州9カ国の株式市場の日々の動きを追い、国民投票前の5年間(2011〜16年)と、ブレグジット後の5年間(2020〜25年)を比較した。

比較には「ボラティリティー・スピルオーバー指標」という専門的な金融指標を用いた。これは、特定の市場が他の市場に与えるボラティリティー(変動性)と、受け取るものの差を数値化した指標だ。

結果は痛々しいものだった。ブレグジット前のイギリスのスコアはプラス11.8で、欧州に及ぼす変動性が受け取るものより大きかった。だがブレグジット後はマイナス5.5へ低下。現在のイギリスは、与える以上のショックを欧州から受ける側に回っている。

その主な要因は、欧州の投資家が以前ほどイギリス市場の動きに反応しなくなったことだ。イギリス発の金融ショックは今も起きているが、それが欧州大陸全体に与える影響は小さくなっている。

一方で同じ期間に、ドイツ市場の影響力は50%近く増大。イタリアはショックを受ける側から、EUで2番目に影響力を持つ市場へと変貌した。

9000億ポンドが逃避

ロンドンが欧州の金融リーダーだった時代には、その市場の発するシグナルが国境を越えてリスク評価の在り方を形づくっていた。これによってロンドンの金融街シティーは、資本の流れや借り入れコスト、投資判断に大きな影響力を持っていた。

現在はその力が弱まり、影響は実体経済にまで及ぶ。

欧州の投資家から資金を調達しようとする英企業は、以前よりコストが高くつくことになりかねない。例えば欧州株に投資するイギリスの年金基金は、ロンドン市場よりもフランクフルトやミラノの動きにリターンが左右される。

さらにブレグジット後、440以上の金融機関が業務の少なくとも一部をイギリスからEUへ移転し、約9000億ポンド(現在のレートで約193兆円)の資産が移された。これは英銀行システム全体の約10%に当たる。

ロンドンは影響力を取り戻せるのか。その可能性は低い。欧州市場全体の結び付きはほとんど変わっておらず、金融ネットワークが縮小したわけでもない。ドイツやイタリアなどが、イギリスの抜けた隙間に入り込んだのだ。

ロンドンが金融センターとして終わりを迎えたわけではないが、欧州のネットワークの中での役割は根本的に変わった。リズムを刻む側から、他者の刻むビートに従う側へ。ポスト工業化時代の経済力を金融サービスに依拠してきた国にとっては大きな転換だ。

Reference

Algarhi, Amr Saber & Hill, Archie & Oyebowale, Adeola Y., 2026. "Brexit and the reversal of financial influence: the UK’s shift from net volatility transmitter to receiver," Finance Research Letters, Elsevier, vol. 94(C). DOI: 10.1016/j.frl.2026.109675

The Conversation

Amr Saber Algarhi, Senior Lecturer in Economics, Sheffield Hallam University and Adeola Y. Oyebowale, Assistant Professor in Banking, University of Doha for Science and Technology

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

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