4月20日の三陸沖M7.7地震を受け、気象庁は「北海道・三陸沖後発地震注意情報」を発表。専門家は1994年以来30年間大規模地震が発生していない「空白地」での、M8クラスへの警戒を呼びかけている。津波が来たとき、私たちはどう行動すべきか。東日本大震災の検案現場に立った法医学者が、遺体の所見から導いた「唯一の答え」を語る。
本稿は著書『私たちはなぜ死ぬのか 法医学者が語る「永く、よく生きるための技術」』(CEメディアハウス)の一部を抜粋・再構成したものです。
津波は「大きな波」ではなく、「高エネルギーのかたまり」と認識を改める
東日本大震災の津波によって亡くなったご遺体を検案した者として、みなさんにお伝えしたいことがあります。
それは、津波は「ただの波」ではなく、「高エネルギーのかたまり」だということです。
高エネルギーとは、人力ではなし得ないエネルギーのことを指します。たとえば、拳で殴る行為や、人が金属バットを使って殴る行為は、低エネルギーです。
一方、高速道路を走るクルマにはねられる、工場で稼働する機械に巻き込まれる、ビルの屋上から墜落する。これらはすべて高エネルギーです。
津波の場合は、重量や速度に比例して大きくなる「運動エネルギー」、重量や高さに比例して大きくなる「位置エネルギー」が加わるため、特に被害が大きくなります。車両や家、がれきなどが大量に含まれた大きな波が時速数十キロというスピードでぶつかってくるのです。
法医学では、このような場合に負う外傷を「高エネルギー外傷」と呼びます。高エネルギー外傷を負ったら、命はまず助かりません。
東日本大震災では、津波がぶつかったことによって防波堤や建物、車両がいとも簡単に破壊されたり、巨大な船の錨につながれていた鎖が切れたりしました。津波に流されるのは、流れるプールで溺れるのとはわけが違うのです。
震災直後に「浮き輪をつけていれば助かったかも」という話を耳にしたことがあります。
しかし、津波は高エネルギーのかたまりであり、津波で負うのは高エネルギー外傷なので、浮き輪をつけていたところで助かるはずがありません。いまとなっては結果論ではありますが、この認識が浸透していれば、あれほど多くの人が亡くなることはなかったのではないかと思います。
せっかくの機会です。この本で「高エネルギー外傷」の定義と、津波は高エネルギーの最たるものであることを覚えておいていただけたら、と思います。