ISによる「不規則な活動」への戦略的転換

この大規模な人員の分散がISにもたらす戦略的利益は大きい。現在のISは、以前のような広大な領土支配を維持する能力はないが、不安定な統治環境や地政学的な空白を巧妙に利用する戦術をシフトさせている。

アルホルの閉鎖は、ISにとってネットワーク再構築に必要な人員の確保と、自らのプロパガンダに活用できる「抑圧からの解放」という物語を同時に提供する結果となった。

ISの公式メディア「アル・ナバ」などは、収容者の解放を組織の悲願として掲げ続けてきた。キャンプからの無秩序な流出を、彼らは独自の文脈で再解釈し、支持者の結束や資金調達の口実として最大限に利用している。

実際に、キャンプからの脱出に際しては、組織的な車列が夜間に住民を連れ出したとの報告もあり、仮に事実であれば、ISの影響下にあるネットワークが依然として高度な動員・密輸能力を保持していることを示唆している。

シリア新政権の内部課題と治安維持の脆弱さ

一方で、シリア国内の権力移行がISの封じ込めをより複雑にしている。米国などは現在、シリア暫定政府をIS対策の主導的なパートナーとして位置づけようとしているが、アル・シャラ体制下の治安維持システムには根深い課題が存在する。

新体制の治安機関を構成する派閥の中には、かつての過激派出身者や、ISの思想に親和性を持つ者が含まれている可能性が指摘される。

2025年後半には、シリア治安部隊の内部協力者が関与したとされる米軍の車列への襲撃事件も発生しており、部隊レベルでの浸透や不十分な身辺調査が治安作戦の基盤を揺るがしている。

さらに、新政権による統治方針が特定の層への疎外感を生んだ場合、ISがその不満を吸収し、動員の機会として利用するリスクも懸念される。

地政学的な波及効果と広がる火種
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