Samia Nakhoul
[ドバイ 20日 ロイター] - 米国とイランによる2回目の停戦協議は、イランのミサイル能力や中東湾岸地域の親イラン武装勢力などの課題から、イランによるウラン濃縮の制限や石油輸送の要衝ホルムズ海峡に対するイランの影響力をどう扱うかに軸足が移ると見られる。
しかしペルシャ湾岸諸国の当局者は、この進め方ではイランの影響力をそぐのではなく「管理する」だけになり、結果として中東のエネルギー供給に対するイランの支配が固定化される恐れがあると危惧している。世界経済の安定が最優先され、エネルギーや安全保障面で最も深刻な影響を受ける湾岸諸国が、正式な意思決定の場から置き去りにされているというのだ。
湾岸筋によると、米国とイランの外交交渉の主眼は、もはやイランのミサイル計画抑制にはなく、イランのウラン濃縮水準を制限し、ホルムズ海峡に対するイランの影響力を暗黙裏に受け入れる方向へと移っている。イランが「ゼロ濃縮」も、濃縮ウランの国外移送要求も拒否しているため、交渉は依然として行き詰まっているが、湾岸諸国の当局者は、このような優先順位の変化そのものが深刻な問題だと指摘する。
政府中枢に近い湾岸筋の1人は「最終的なレッドライン(譲れない一線)はホルムズになる。以前は問題ではなかったが、今は違う。ゴールポストが動いた」と述べた。
ホルムズ海峡の重要性を端的に示したのが、ロシア安全保障会議の副議長を務めるメドベージェフ前大統領による4月8日のXへの投稿だ。メドベージェフ氏はこの中で「米国とイランの停戦がどのように展開するかは不明だ。しかし1つ確かなことがある。イランは『核兵器』を試した。それがホルムズ海峡だ。その潜在的な力は尽きることがない」と指摘した。
この発言によってホルムズ海峡は、イランが本物の核兵器という一線を越えることなく、相手に経済的な負担を強い、航行や取引のルール作りに影響力を行使できる「交渉カード」であることが浮き彫りになった。
<ホルムズ海峡は金>
イランの治安当局者も非公式の場で同様の見方を示しており、ホルムズ海峡は有事の選択肢ではなく、長年準備されてきた抑止の手段だと位置づけている。
イランの治安筋高官は「イランは何年も前からホルムズ海峡封鎖のシナリオを練り、全ての段階を検討してきた。今やホルムズ海峡はイランにとって最も効果的なツールの1つであり、地理に根差した、強力な抑止力だ」と説明した。ホルムズ海峡は「イランの地理的条件から生まれた、金のように貴重で代替不可能な資産だ。地理に根ざしているゆえに、世界がイランから奪うことはできない」と述べた。
革命防衛隊に近い別のイラン筋はさらに踏み込み、ホルムズ海峡を巡る長年のタブーは、もはや破られたと話した。ホルムズ海峡を「すでに鞘(さや)から抜かれた剣」にたとえ、米国や周辺国が無視できない現実的な脅しの手段になっていると述べた。ホルムズ海峡により、この地域は域外の大国に対して影響力を行使できる立場を得た、という認識だ。
アナリストによると、湾岸アラブ諸国が最も強い危機感を抱いているのは、イランのミサイルやドローン(無人機)、さらには代理勢力による攻撃が繰り返し自国周辺を脅かしてきたにもかかわらず、世界経済への影響を理由に、停戦協議がほぼホルムズ海峡問題だけに焦点を当てて進められている点だ。そのせいで湾岸諸国が直面する安全保障上の脅威が、後回しにされ軽視されているという。
エミレーツ政策センターのエブテサム・アルケトビ所長は「今、形を成しつつあるのは歴史的な和解ではない。紛争が長期的に続くことを前提に、意図的に設計された秩序だ」と見ている。その上で「ミサイルや代理勢力による被害を受けているのはイスラエルであり、そして何より湾岸諸国だ。われわれにとっては、ミサイル、代理勢力、そしてホルムズ海峡を包括的に扱う合意が望ましい。しかし彼らはミサイルも代理勢力も気にしていないように見える」という。
<制裁解除への慎重論>
アナリストによると、こうした交渉姿勢は緊張を解消するというよりも「管理可能な水準で固定化」する結果を招きかねない。これは米国とイランには好都合でも、ミサイルの脅威の下で生きる湾岸諸国にとっては、不安定さを恒久化するものだという。米・イスラエルによるイランへの攻撃で始まった今回の戦争で湾岸経済は既に深刻な影響を受けている。
外交筋によると、湾岸諸国の当局者は、イランの対応を見極めるために、全面的な制裁解除ではなく段階的な解除を米国に求めてきた。湾岸諸国の首都を攻撃できるイランのミサイルの能力や親イラン武装勢力といった中核的脅威は依然として手つかずのままだ。
湾岸アラブ諸国全体で、米国に対する感情は、静かな不満から、より露骨な苛立ちや当惑へと変化している。
<単一の守護者への依存に限界>
米国は戦争中、航空・ミサイル防衛協力、海上警備、重要インフラ保護を通じて湾岸同盟国を防衛するとの約束を繰り返してきた。しかしドバイ公共政策センターのムハンマド・バハルーン所長は、今回の紛争の教訓の一つは「単一の外部の守護者に依存することの限界」だと指摘する。
湾岸アラブ諸国の指導者は米国に対して長年にわたりイランとの武力衝突を避けるよう戒めてきたが、今回の紛争開始以降、公の場では沈黙を保ってきた。この自制は単なる外交的配慮ではなく、経済的損失や防衛費という代償を負わされながらも、自らは主導権を持たず、行方を左右できない戦争を巡る不確実性ゆえのことだ。
そして今、米国とイランが交渉に入る中で、湾岸諸国の当局者は自分たちが協議から外されているという問題はもはや地域レベルにとどまらないと主張。ホルムズ海峡の重要性を考えれば、それは国際社会全体に関わる問題だと訴えている。