Ann Saphir
[16日 ロイター] - トランプ米大統領が米連邦準備理事会(FRB)の次期議長に指名したケビン・ウォーシュ氏が円滑に、パウエル現議長の任期満了までに議長に就任できるかどうかはますます不透明な状況だ。議長不在となった場合の暫定的なリーダーを巡って衝突が起きる可能性もある。
上院銀行委員会は来週21日にウォーシュ氏の指名承認公聴会を実施する予定だが、パウエル氏の任期が終わる5月15日までに上院本会議で承認を得られるかどうかは疑問だ。
共和党のトム・ティリス上院議員は先に、司法省がワシントンにあるFRBの改修工事を巡るパウエル氏の捜査を終えるまで指名承認手続きを阻止すると表明した。
一方で、上院銀行委の委員長を務める共和党のティム・スコット上院議員は司法省が今後「数週間以内に」捜査を終えると確信していると述べたが、出口は見えていない。連邦判事は今月、パウエル氏への政府の召喚状について、利下げを迫るための口実にすぎないとして無効にしたが、トランプ氏は自らの望み通りに捜査を最後までやり遂げたい意向だ。
トランプ氏に近いコロンビア特別区のジャニーン・ピロ連邦検事はこの連邦判事の決定を不服として控訴すると言明した。
14日には、政府の検察官2人と捜査官1人がFRB本部の改修工事の現場を訪れ、視察を要求したが立ち入りを拒否された。
FRBの弁護士は彼らをメールで非難し、ティリス氏は米国の伝統的なコメディトリオ「3ばか大将(スリー・ストゥージズ)」の写真を添えて救いようがないほど愚かだとツイートした。
<5月15日以降はどうなるのか>
もしウォーシュ氏が5月15日までに承認を得られなかった場合、パウエル氏はFRBの7人の理事からなる理事会の「暫定」議長を務めると述べている。パウエル氏はそれが「法律の規定」であり、中央銀行が過去に実施してきたことだとしている。
トランプ氏は今月15日、もしパウエル氏が留任するならば解任するだろうと述べた。このような措置は前例がなく、トランプ氏が昨年夏にFRB理事のリサ・クック氏を解任しようとした際と同じように、法的な異議申し立てを招くことになる。
クック氏の事例は連邦最高裁判所で審理中であり、彼女はFRB理事の職にとどまっている。
アナリストたちは、ホワイトハウスはパウエル氏に代わって、トランプ氏の元経済顧問であるスティーブン・ミラン氏など、他のFRB理事を指名しようとする可能性もあるとみている。
そのような措置が裁判所で認められるかどうかは定かでない。
カーター元大統領は1978年、自らが指名した次期議長の指名承認手続きが進んでいる間、アーサー・バーンズ氏を代行として留任させてFRB指導部の空白を回避した。
しかし、この措置は大統領がFRB議長に指名した人物に上院の承認を必要とするように法律が改正される前のことだった。それ以降、1998年に制定された別の法律「連邦職務空席改革法」は複数のメンバーで構成される機関を運営する代行者の大統領指名を禁じている。
予測会社LHメイヤーのアナリストのデレク・タン氏は「ホワイトハウス側としては異議を唱えるかどうかは彼らの選択次第だ」とし「もしホワイトハウスが強硬に訴訟や異議申し立てを始めたら、(市場の)FRBに対する信頼を揺るがしかねないだろう」と述べた。ただ、タン氏は市場がこれまでのところ今後起こる可能性があるドラマに対して平然としているように見えるとも述べた。
<際どいタイミング>
中東紛争に伴う原油高がインフレを押し上げ家計を圧迫している状況で、FRBが近いうちに利下げに踏み切る可能性は低いと見られている。
エバーコアISIの副会長クリシュナ・グハ氏は「エネルギー価格ショックの最中に中央銀行へ政治的な圧力をかければ、たとえ最終的に目的が達成されなかったとしてもリスクがないわけではない」と指摘する。「FRBが中長期的にインフレを物価目標の範囲内に戻すために必要な措置を講じられないのではないかという懸念から、インフレ期待が上昇し得るリスクを少なくともわずかでも高めてしまう」という。
ウォーシュ氏は来週の上院銀行委員会の公聴会で、友好的な共和党の多数派と、トランプ氏がFRB議長に指名した人物を承認すれば中央銀行の独立性を危うくすると懸念する民主党議員からの厳しい追及に直面する可能性が高い。
ホワイトハウスの報道官のクシュ・デサイ氏は「ホワイトハウスはウォーシュ氏を次期FRB議長として迅速に承認するため、上院と協力することに引き続き注力している」と述べた。
ティリス議員の反対を別にしてもスケジュールは非常に過密だ。上院がFRB議長候補の公聴会から承認までを1カ月足らずで強行した事例は過去に一度しかなく、しかもそれは通常の理事の事例であって、世界で最も重要な中央銀行のリーダーの事例ではない。
トランプ政権の当局者たちはウォーシュ氏が期限内に承認されると自信を示している。
それは「望みがかなっても思わぬ悪い結果になることがある」事例なのかもしれない。