AIによる吹き替え

映画界がAIを受け入れるに当たり、比較的抵抗の少ない足がかりとなるのは吹き替えへの活用かもしれない。

インドには22の公用語と数百の方言があるため、国内で大ヒットさせるためには吹き替えが不可欠だ。観客は長い間、セリフと口の動きが一致しないことに不満を抱いてきたが、AIがこの問題の解決に一役買っている。

ベンガルールにあるAI新興企業、ニ‌ューラルガレージはインドの大手映画スタジオに吹き替えを提供している。同社の共同創設者スバブラタ・デブナス氏はロイターに対し、AI生成のキャラクターが英語で話す映像を披露した。次にドイツ語の音声を重ねると、数分のうちにキャラクターは口や顎の動きがぴたりと一致した状態で、流ちょうなドイツ語を話し始めた。

デブナス氏によれば、この技術は「その人の演技、アイデンティティー、話し方を維持したまま」、吹き替えが自然に見えるよう顔を変化させることができるという。

コレク​ティブはマイクロソフトとも協力しており、協業を通じ「次世代の物語表現」を支援するためにAIコンピューティング能力を提供していると述べた。

テキスト指示(⁠プロンプト)だけでは不可能な、緻密な描写を追求するため、コレクティブは実写とデジタルアニメーションを組み合わせたハイブリッド方式を採用している。俳優がセンサー付きのモーションキャプチャースーツを着て身体の動きを3Dデータとして記録し、スマートフォンで顔の表情を撮影する。このデータを製作過程に投入することで、AI生成キャラクターの動きをきめ細かく制御できるようになる。

レッドカーペットに現れたテック大手

波紋はスタジオの外にも広がっており、米ロサンゼルス、仏カンヌ、スペインのバルセロナなどの都市で、AIが生成した短編映画を上映する映画祭が盛んに開催されている。インドでは昨年11月にムン​バイのロイヤル・オペラ・ハウスで初めて開催され、若き製作者らが踊るロボットと共にレッドカーペットを歩いた。

2月、ニューデリーで開催された第2回インドAI映画祭では、新進気鋭のAI映画製作者らに混じって、米半導体大手エヌビディアのグローバル副社長プラディープ・グプタ氏の姿もあった。同氏は聴衆に対し、誰もが製作に「多額の資金を投じることなく」本格的な作品を創造できるよう、同社が技術コストの大幅な削減に取り組んでいると語った。

ボリウッドの監督アヌラーグ・カシャップ氏はロイターに対し、インドの映画製作におけるAIの成長と、その利用に関する「歯止め」の欠如に強い懸念を表明した。ただ、映画スタジオがこの技術を導入する経済的合理性については、不承不承ながらその正当性を認めた。

「インドでは、映画は芸術ではない。純粋なビジネスだ。だからこそ、製作会社は神話の世界を描くためにAIを駆使するだろう」とカシャップ氏は話した。「インドの観客は、そういうものに目がないのだから」

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