「マルチトラックな欧州」

新しいヨーロッパは、2つの点で現在のEUとは違う。まずEUとユーロ圏をはっきり分けて考える。第2に、ユーロに未解決の問題が山積していることを認める。そうした問題に、欧州の統合を破壊させてはならない。

ユーロ圏を縛る規則は時代遅れだ。全てのEU加盟国は一定の条件を満たせば単一通貨ユーロを採用すべきものとされている。そのためユーロ導入を拒否したり先送りしたりしている国(スウェーデンやポーランドなど)は「条件未達」国として扱われるという理不尽な状況が生まれている。

影響は根深い。EUはユーロ圏を核とする組織に変質し、ユーロ圏に属さない加盟国は「二等国」扱いされている。そこには、速度こそまちまちだが加盟国は皆同じゴールを目指しているという暗黙の了解があるのだが、それは多くの加盟国が「絶えざる統合の深化」というゴールを拒否している現実から目を背けている。

時代遅れな目標は捨て、速度は違えど同じ場所を目指す「マルチスピードな欧州」ではなく、加盟国に多様な道筋を認める「マルチトラックな欧州」を目指すべきだ。メリットは広範囲に及ぶだろう。昨今、加盟国は主権を主張するばかりで協調には後ろ向きだ。だが協調がポジティブな結果をもたらせば風向きも変わる。例えば現在は有志連合で担っている防衛も、全体で取り組むようになるかもしれない。

©Project Syndicate

【参考記事】イギリス人は結局、ブレグジットをどうしたいの?(コリン・ジョイス)

※本誌8/7号(7/31発売)「EU崩壊 ソロスの警告」特集は、ソロスの提言に加えてメルケル政権末期に入ったドイツ、ユーロ懐疑派イタリア新政権の不吉な予感、かつての「Mr. ブレグジット」インタビュー......など、さまざまな記事で多面的にヨーロッパ危機の本質に迫る内容です。
ニューズウィーク日本版 台湾有事の新シナリオ
2026年4月21号(4月14日発売)は「台湾有事の新シナリオ」特集。

米・イラン戦争で変わる地域紛争の「大前提」/石油危機を恐れるべき理由

※バックナンバーが読み放題となる 定期購読はこちら
※画像をクリックするとアマゾンに飛びます