0304mn_fba01.png

神経美学から見た「日本的美」──真・善・美をつなぐ脳の働き

まずは石津氏が、自身が専門とする「神経美学(neuroaesthetics)」の立場から、本SIGの問題意識を説いた。近年、経営やリーダーシップの文脈において「美意識」の重要性が語られる場面が目立つが、多くは西洋的価値観に基づいた抽象的議論にとどまっているという。対して日本は長い文化的蓄積を持ち、日本人が身体的・感覚的に共有してきた固有の美意識があるはずであり、それを科学的に捉え直すことが必要だというのが出発点である。

なぜ「美」は重要なのか

「美は趣味や贅沢の問題ではない」。石津氏は、化粧品・広告・美術館などが生み出す巨大な経済効果や、同じ履歴書でも「美しい」体裁の方が評価されやすいといった実証研究を例に挙げ、人間の判断や行動が美に強く影響されていることを示唆した。

さらに、美は外見だけに限られない。他者を思いやる行為を「美しい心」と感じたり、数学者が数式の簡潔さに美を見いだしたりするように、人間は真実や善行と結びついた価値にも美を感じる。これは古代ギリシャ哲学で語られた「真・善・美」の三位一体の考え方とも通じる。絶対的な正解がない状況で意思決定を迫られるとき、美の感覚が判断を支える可能性がある、として、石津は論を進める。

0304mn_fba02.png

神経美学とは何をしているのか

神経美学は、美的体験に伴う心と脳の働きを、心理実験と脳計測によって研究する分野である。fMRI(脳の血流変化を測る装置)や脳波、心拍、視線、表情筋活動などを用い、「美しい」と感じている瞬間に身体と脳がどう反応するかを客観的に測定する。

研究の蓄積から、音楽・絵画・顔・自然風景・数学的真理、さらには道徳的な美しさなど、対象が異なっても、美を感じたときには共通して活性化する脳領域があることが分かってきた。その中枢が、前頭葉の奥にある「内側眼窩前頭皮質(ないそくがんかぜんとうひしつ)」だ。眉間の奥あたりにある部位で、「報酬(報酬系)」、つまり脳が価値を感じ、喜びや快楽を処理する中心地だ。

日本的美の特徴と歴史的重なり