――アメリカは国際刑事裁判所のメンバー国になっていないし、国際法それ自体に、法的拘束力はないのでは。

法的拘束力はある。国際法と国家の主権、という複雑な議論になってきたが、アメリカはこれまで、そしておそらく現在も、国際法の擁護者だ。拷問については強固な反対者であり、拷問の定義についても進歩的な規定をしてきた。

国内的にも拷問とは何かについて積極的に規定し違法化してきたし、アメリカで拷問というのは常に違法だったのだ。9.11後のアメリカが、これまでの態度に対して矛盾している。

――ブッシュがやったことが例外的だったということか。

まさにそうだ。アメリカが国際法に従わないこともあるが、それは稀で、根本的には国際法に乗っ取って動いてきた。例外的なケースは全体から見ると少ないほうだ。尋問プログラムというのはCIAの任務として例外だったというより、アメリカがやったこととして例外だった。

私は、まさか自分が母国の拷問について反対の声を上げることになるとは思いもしなかった。拷問というのは外国の問題であって、自国の問題になるとは思わなかった。非常に残念なことだ。アメリカは、そのあるべき姿を裏切っているのだから。

私の発言を表面的に捉える人たちは私が自国に敵対的だと考えるが、実際には全く逆で、私にとっては愛国的な行為にほかならない。自国が間違いを犯したと認めることは国家の名誉を傷つけることにはならないし、間違いを認めないことこそ、名誉を傷つける行為だ。

自分たちが犯した間違いを認めれば、それを正すことができる。できるのだから、やらなければならない。これが、私が尋問プログラムに関与し始めたころから言ってきたことだ。

◇ ◇ ◇
インタビューを終え、カールが日本を離れたまさに直後、ジーナ・ハスペルが女性として初のCIA長官に就任した。ハスペルは、「強化尋問プログラム」を行っていた施設の責任者だったとされる人物だ。冒頭のアルカイダ幹部も、ハスペルの施設で水責めにあったと言われている。

そのハスペルの長官就任を、ハスペルと「同期」だったというカールはどう見るのか。

本誌6/12号(6月5日発売)「元CIA工作員の告白」特集では、カールがハスペル長官就任に際して寄稿した記事のほか、カールへの別のインタビュー記事(スパイの勧誘方法や「スパイ天国」日本の実態を聞いた)、第2次大戦後間もない時期のニューズウィーク英語版東京支局長とCIAのただならぬ関係、そしてCIAの「女スパイ」たちの素顔に迫る記事を掲載。

「上官」から道義的に許されない行為を指示された場合、自分はどうするのか。

こういうケースは、戦時中だけでなく現代社会でもあり得るだろう。ある組織の指揮系統の一員として「指令に従っていただけ、というのは抗弁としては有効ではない」――という、カールの言葉は重い。


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<トランプ政権下で初の女性長官が誕生したCIA――。アメリカの「拷問」と日本を含む世界でのスパイ活動の実態とは? 本誌6/12号(6月5日発売)は「元CIA工作員の告白」特集です>

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2026年4月21号(4月14日発売)は「台湾有事の新シナリオ」特集。

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