安倍首相が第一次政権から打っていた憲法改正への"布石"

――今回の参院選では18歳選挙権が注目を集めていますが、憲法改正が発議された場合の国民投票について定めた「国民投票法」でも、投票年齢は18歳となっています。

西田:「国民投票法」についての議論は、あまりメディアで見かけないのですが、著書などでも書いてきたように以前から注目しています。

「国民投票法」が規定する「国民投票運動」と、「公職選挙法」が規定する「選挙運動」は大きく異なっており、通常の選挙と比較すると、国民投票の規定は非常に少ない。具体的には費用の上限、期間、ビラの枚数、ポスターの大きさ、選挙カーの台数などについての規定がありません。これは、国民投票は憲法改正という極めて重要なテーマについての投票であるため、広く周知することが必要だと考えられているからということになっています。

 これは昨年の大阪市特別区設置住民投票、すなわち橋下徹氏が訴えた「大阪都構想の是非を問う」住民投票とよく似ています。当時、維新の地方議員が全国から集結して街を練り歩いたり、テレビCMがたくさん放映されていました。反対派も同様です。このことを思い出すと、憲法改正が発議されたら、護憲と改憲の双方の立場で、あのような運動が全国津々浦々で繰り広げられると予想できます。

 戦後長い間、憲法改正の是非が、保守派と革新派の主要な対立軸となってきたことを考慮しても、多数の意見広告が新聞に掲載され、テレビやYouTube上で様々なプロモーションが実施されると考えられます。

――そうした状況では、資金がある方が有利になりますね。

西田:そうもいえると思いますね。選挙運動の手法についての規制が少ないアメリカ大統領選におけるキャンペーンのようなPR合戦が行われると考えれば、イメージしやすいと思います。

 そもそも、国民投票法が成立するときは、通過させるかどうかが焦点になっていて、法案の内容について、とくにこの国民投票運動のあり方などについてはそれほど議論の盛り上がりはなかったと記憶しています。国民投票法が成立したのは、まさに第一次安倍政権の時でしたから、当時から憲法改正に向けて戦略的・長期的にシナリオが考えられていたのではないかと推論できると思います。

――先ほどの憲法論議の問題とも重なりますが、このままでは、実際に国民投票を行う段階になっても、多くの有権者にとってはどこかピンとこないままに投票日を迎えてしまう気がします。

西田:ここまでの予想通り、憲法改正が発議され、それが96条に関わる部分だった場合、「3分の2が2分の1になる」ということの意味を、正確に理解できている人はそれほど多くはないと考えられます。

 こうした状況下で、初めての投票行動が憲法改正にまつわる国民投票という18歳、19歳の人たちが出てくる。そうした現状を考えると、仮に憲法改正が発議され、国民投票になっても投票率は極めて低い結果に終わるかもしれません。そうした"熱狂なき国民投票"であっても、投票した人の過半数で改正の是非が決定してしまうのです。

【参考記事】投票率が低い若者の意見は、日本の政治に反映されない

 現在、18歳選挙権の実現にあわせて、行政が主体となった"中立的"な主権者教育が行われています。こうした活動によって投票に対する意識向上はできるかもしれませんが、憲法問題のような価値判断を行うためには、やはり政治観を身につけるための土台づくり、判断のための素材・知識や分析の枠組みを生活者に浸透させる仕組みを整えていくことが必要でしょう。それがネットも含めたメディアにも求められていると思います。

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西田亮介(にしだ・りょうすけ)東京工業大学大学リベラルアーツ研究センター准教授。博士(政策・メディア)。1983年京都生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。同後期博士課程単位取得退学。(独)中小機構経営支援情報センターリサーチャー、立命館大学特別招聘准教授などを経て現職。専門は情報社会論と公共政策。 著書に「ネット選挙とデジタル・デモクラシー
」(NHK出版)、「ネット選挙 解禁がもたらす日本社会の変容
」(NHKブックス)、「無業社会 働くことができない若者たちの未来
」(朝日新書)、「若年無業者白書2014-2015
」(共著、バリューブックス)、「メディアと自民党
」 (角川新書)など。
※当記事は「BLOGOS」からの転載記事です。
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