現行の条文では、改正の発議には両院の総議員の3分の2が必要ですが、これを過半数にしようというもので、自民党が示している憲法改正草案にも盛り込まれています。むしろそれ以外の条文の改正は、現時点では難しいと思います。

 今年は日本国憲法公布から70年、来年は施行から70年です。さらに2018年は明治維新から150年、2019年は大日本帝国憲法公布から130年という節目の年にあたります。安倍総理の自民党総裁の任期は2019年までであることを考えると、この間に最初の憲法改正を行いたいと考えていると推測されます。それによって憲法改正を訴え続けた祖父・岸信介元総理の意志を継承するとともに、彼を名実ともに超えたいと考えているのではないでしょうか。

――連立を組む公明党は、「加憲」を主張していますが、山口代表は現時点の改正には慎重な姿勢を示しています。議席数を考えれば、公明党抜きでの発議は難しい状況ですが。

西田:両党は選挙の際にお互いの力を必要としていますし、公明党は政権与党内でのブレーキ役と言われてはいますが、現在では押し切られたようにみえる状況も増えています。9条改正はさすがに難しいでしょうが、96条のような、あまりイデオロギッシュではないようにみえる条文の改正でないものについては協力の可能性は十分にあるでしょう。

【参考記事】憲法96条改正の問題点を考える

「否定形」のメッセージは有権者には響かない?

―― 一方、民進党など、野党の側の批判を聞いていると、あくまで憲法改正=9条、安保法制関連ばかりですね。「平和主義の日本を壊してはならない」といったような。

西田:そうですね。それでは「9条の問題は最初からやりません」とかわされてしまう可能性もあります。

 また、学生たちに聞いてみても「現実にそぐわない部分があるのなら、ちょっと変えてみてもいいのではないか」という感想もよく聞きます。戦後70年経った、多くの生活者の感覚も、これに近いものがあるのではないでしょうか。

 つまり、「◯◯はいけない」というような否定形のメッセージでは、有権者にはあまり響かず、リアリティを持った改憲勢力に押し切られる可能性があるということです。

――自民党の改憲案には、多くの批判が集まっていますが、一方で野党側には対案がありません。もちろん「改憲すること自体に反対だ」もひとつの意見だとは言えますが、自民党以外からも改憲案が出てきてもよいと思います。

西田:自民党の改憲草案には、これまでも様々な批判が出ているように、多くの問題点を孕んでいます。しかし、あれはモーターショーのたとえで言えば"コンセプトカー"であって、実際の改憲にあたっては議論に耐えられるよう、現実的なものに今後ブラッシュアップされて行くと考えられます。

 また、日本には良かれ悪しかれ、憲法や解釈、改正に関する具体的な議論を一部の憲法学の世界の方々に預け、高度で複雑な、そして生活世界から切り離された世界に閉じ込めてきてしまったというところがあるのでしょうか。その結果、護憲派だけでなく、改憲派も70年間、具体的な憲法の議論を棚上げすることになってしまいました。

 議論が人口に膾炙するよう、戦後民主主義的な考えのみならず、より現実的な、現在の政治の世界に合わせた具体的で、それでいて抑制的な議論をしていかなければならない時代になっているのではないでしょうか。難しいことだとは思いますが。

第一次政権から打っていた憲法改正への"布石"