インド最南端から西側にかけてアラビア海に臨むケララ州は、古くからインド亜大陸におけるイスラム勢力の拠点だった。

当時も現代も、ケララ州と中東の距離を埋めるのは貿易だ。ただし、1980年代以降、ケララ州から産油地域への最大の輸出品は、香辛料ではなく移民労働力になった。州の人口の10%近く、200万人以上が湾岸諸国で生計を立てている。

2014~18年の移民労働者の送金は、州のGDPの35%、銀行預金の39%を占める。多くの国民が国外で働くことで国が得る利益と、彼らの逆流が起きたときに国が直面する課題の両方について、ケララ州は格好の例でもある。

インドのマヘンドラ・ナス・パンディ技能開発・起業促進相は国内のメディアに、帰国した人々が自分の技能に合った雇用を見つけやすくするため、到着時にデータを収集していると語った。

しかし、アナリストたちは希望的観測だと一蹴し、もっと差し迫った脅威があると指摘する。すなわち、インドの新型コロナの感染者が世界で3番目に多いことと、国内でもコロナ禍で数百万人の出稼ぎ労働者が都市から帰郷し、そのまま無職でいることだ。

大量失業が招く大惨事

ケララ州の研究機関、開発学研究センターのイルダヤ・ラジャン教授は、数十年にわたり湾岸諸国への出稼ぎ労働者を観察している。「政府は人数を過小評価している。少なくとも150万人がインドに戻ってくるだろう」

「1人の出稼ぎ労働者が故郷で4~5人を養っているということは、大規模な失業が大惨事を引き起こしているということだが、政策立案者は真剣に受け止めていない」

ウガンダのNGO、労働行動プラットフォームのリディア・ブワイテも同様の懸念を語る。「17年のウガンダへの出稼ぎ労働者による送金額は13億ドルで、ほかのどんな輸出品よりも多い」。政府の推計によると、送金額が減少すれば、「少なくとも200万人以上のウガンダ人が貧困に追い込まれるかもしれない」。

湾岸諸国の政策立案者は、外国人を解雇すれば国内の失業問題が解決すると考えているかもしれないと、オックスフォード・エコノミクスのリバーモアは述べる。だが、それは近視眼的かもしれない。リバーモアによれば、外国人の国外流出は、湾岸諸国の不動産や賃貸市場の下落を推し進め、既に苦戦している小売りおよび接客部門の需要をさらに減退させるだろう。

最大の困難に直面しているのは、出稼ぎ労働者自身だろう。湾岸諸国で社会的地位を築いてきた数百万人にとって、新型コロナは一つの時代の終わりを告げている。エミレーツの男性客室乗務員は言う。「インドで同じくらい稼げる仕事があったら、わざわざドバイに来ていない」

From Foreign Policy Magazine

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