中国が傀儡を立てた前例も

このダライ・ラマの転生問題が世界中の耳目を集めるのは、パンチェン・ラマ11世という悪しき前例があることが一因だ。

パンチェン・ラマとはチベットの文化と宗教、政治において、ダライ・ラマ法王に次ぐ重要な存在。パンチェン・ラマも転生制度によって後継者が選ばれる。

1989年、パンチェン・ラマ10世が死亡した(これには中国政府による暗殺説が囁かれている)。その後、次のパンチェン・ラマの捜索が行われ、1995年5月14日、ダライ・ラマ14世は、パンチェン・ラマ11世発見を布告した。

しかし、中国政府はパンチェン・ラマ11世とされた少年、ゲンドゥン・チューキ・ニマとその両親にすぐさま有罪宣告を下し、家族ともども「誘拐」。ニマを世界最年少の政治犯として収監した(中国政府がニマの拘束を認めたのは1年後だった)。

その後、中国政府は自身が認定した別の少年(ギェンツェン・ノルブ)をパンチェン・ラマ11世として即位させた。ダライ・ラマの承認を得ていないパンチェン・ラマはチベット人から正当性がないとみなされるが、そんなのお構いなしに、だ。

懸念通り、ノルブは傀儡として中国政府に都合のいい発言を繰り返すなど、政治利用され続けている。最近では、2025年6月6日に習近平を表敬訪問した際、こう発表している。

「習近平総書記の真摯な教えを心に刻み、パンチェン・ラマ10世を模範として、中国共産党の指導を断固として支持し、祖国統一と民族統一を断固として守っていく」

一方、ニマは拘束されているという事実は分かっているものの、今なお所在はつかめておらず、国際社会から非難の声が上がっている。

マイク・ポンペオ米国務長官(当時)は2020年5月、「 中国政府は(パンチェン・ラマの)居場所を明らかにし、中国国内のあらゆる宗教の信者が干渉を受けることなく自由に信仰を実践できるようにすべきだ」とXに投稿している 。

現米国務長官のマルコ・ルビオも今年5月18日、ニマ失踪から30年の節目を迎えるにあたって、中国政府に対し「ニマを直ちに釈放し、チベット人への宗教的信仰を理由とした迫害を止めるべき」と声明を出した

どうなるダライ・ラマ15世